第3章 Kissから始めよう
「まりかちゃん、ありがとう…俺なんかの事、好きになってくれて」
「櫻井くん……」
綺麗な二重の瞳がゆらゆらと揺れる。
彼女が人気があるっていうの、分かる気がする。
「まりかちゃんは、とっても可愛いと思う…きっといい娘なんだろうな…って…そう思うよ。でも…俺、好きな人がいるんだ。」
「…好きな、人…」
「その人は、俺のことなんか好きじゃない…だけど、やっぱりね…その人がいいんだ…だから、まりかちゃんがどうとかじゃなくて、他の人でも俺…つきあうつもりはない…」
「翔くん!何言ってんや~?まりかちゃんやで?よく考えて答え…」
「うるさいな!おまえは黙っとけよ!」
斗真が村上を制している。
「分かった…残念だけど……
諦める努力…してみる…でも…ひとつだけ…」
??…なんだろう?
「櫻井くんが片思いしてる人って、誰?教えて…」
「…それは…それは…」
「ああっ、あのさ!!櫻井、バ、バイトの時間じゃね??もう行かないとなあ〜!」
今まで黙っていた松本が、急に割って入って来て俺の腕を掴んだ。
松本……なんで…?
バイトって…俺…
「ああ、もう間に合わないかも!じゃ、行こっか!
そういう事だから…な!」
な!ってさ…
まりかちゃんや他の野次馬たちが呆気に取られている中、松本は俺の腕を引っ張ってずんずん歩き出した。
階段を下りて行く松本は、振り返りもしなくて…
それでも、俺の腕を離すこともしないで…
昇降口で靴を履き替える時も、
校門を速足で過ぎる時も、
松本は1度も振り返らない…
……松本…何考えてるの?
「ねえ、…何んで怒ってるんだよ?」
その背中に声をかけた。