第3章 Kissから始めよう
【翔side】
思いもかけない松本の大声に、クラス中が水を打ったように静まり返った。
「なんや、潤…」
「あ、いや…」
「お前、まさか、まりかちゃんが好きとかちゃうやろ…」
「違うよ!」
食い気味に村上を黙らせた松本は、ちらっと俺を見た。
ドキン…と心臓が小さく跳ねた。
「じゃ、なんや?」
「いや…だから……」
俺たちに注目していたクラスメイトたちも徐々に授業の準備を始めた。
松本……なんで…?
つーか。D組のまりかちゃんって、どんな娘だっけ?
「お、俺も立ち会うよ!」
「はあ〜?お前、翔くんの保護者かよ?」
「だってさ。まりかちゃん、後夜祭で言う気でいたんだろ?
だったら、見届け人がいた方がいいはずじゃん!」
見届け人って……
「まあ、そやけどな…翔くんはそれでええんか?」
「…別に、いいよ…」
松本が伺うように上目遣いで俺を見てること…分かってたけど。
俺はそれに気付かぬ振りで承諾した。
その娘がほんとに俺に告白するのか…そんなの分かんないけど…
俺の答えは決まってるから……
放課後、村上に連れられてD組へ向かった。
「あのさ、こんな大勢で行ってもいいの?」
振り返ると、興味深々の野次馬連中が何人も着いて来ている。
「まあ、ええやろ。もともと後夜祭のステージで言う気でいたんやし…」
そっか…
「どうすんの?翔ちゃん!まりかちゃんの告白!OKすんの??」
雅紀が俺の肩に腕を回しながら聞いてきた。
「…それは」
「あ、まりかちゃん!!」
村上の声に、みんな一斉に廊下の先を見ると、そこに一人の女の子が立っていた。
……ああ、この娘か…
知らないって思っていたけど、図書館でよく俺の近くに座っていた娘だった。