第3章 Kissから始めよう
「なぁ…なんで怒ったの?」
ブランコを漕ぎながら、訊ねた。
櫻井は隣のブランコに座り、遠くへ視線を投げながら、ゆらゆらと少しだけ揺れている。
「…なんで、泣いたの?」
最初の質問には答えてくれなかったから、ちょっと質問を変えてみると。
横目でちろりと俺を見て、大きく息を吐き出した。
「…ごめん」
「…なんで謝ってんのか、わかんねぇんだけど?」
また質問すると、今度はばつが悪そうに頬を歪める。
「だから…勝手に一人で怒って、勝手に泣いて…ワケわかんないだろ?だから、ごめん」
そう言って、また溜め息を吐いて。
立ち上がった。
「…帰るわ」
「待てってば」
背中を向けた櫻井を、少し声を低くして呼び止めると。
今度は素直に立ち止まる。
「ちゃんと質問に答えろよ。なんで怒ったり泣いたりしたのか」
「…そんなもん聞いて、どうすんだよ」
背中越しに聞こえた声は、少し震えてる気がした。
「どうするか、わかんねぇけど…聞きたい」
なんでかわかんないけど
知りたいんだ
櫻井の今の気持ち
「…なんだよ、それ…」
俺の言葉に、ぼそりと呟いて。
くるっと勢いよく振り向く。
街頭の光を反射して
櫻井の瞳がキラッと星みたいに光った
「…言ったろ?俺、松本のことが好きだって」
それがすごい綺麗で、またボケッと見惚れてると。
どこか自嘲するように笑って。
「だから…さっきの言葉、嬉しかったんだ…でも、松本は俺のこと、なんとも思ってないんだし…俺が勝手に嬉しがってるだけなんだなって思ったら、虚しくなって…それだけ。全部、俺が勝手に一喜一憂してるだけで、松本にはなんの関係もないから…」
でも、語尾が震えたのがわかった。
「だから、松本が気にすることなんて、なにもないから」
泣きそうなのに
笑ってて
胸が、ズキンと痛みを訴えてくる。
「…もう、この話は忘れて?俺も、頑張っておまえのこと忘れるし」
「えっ…!?」
「今日は、美味いラーメン屋連れてってくれてサンキューな!おやっさんに残してすみませんでしたって、松本から伝えといてくれな!」
一方的に話をぶち切って。
櫻井は踵を返すと、止める暇さえ与えずに駅の方へと駆けていってしまった。
「櫻井っ…!」
俺の胸に
抜けない刺のような痛みを残して