第3章 Kissから始めよう
【潤side】
ラーメンを啜ってると、横から刺さるような視線を感じて。
「ん?」
麺を咥えたまま、そっちを向くと、櫻井は大袈裟なほどビクッと震えた。
「あ、ご、ごめんっ…なんでもないっ…」
慌ててラーメンを口に入れる横顔は、耳まで真っ赤になってる。
やべぇ…
なんか、櫻井がスゲー可愛く見えるぞ…
「な、なに?なんで、見てんの?」
耳どころか首まで真っ赤に染まってるのをまじまじと見つめてたら。
櫻井はなんか怒ってるみたいに眉をひそめて、また俺を見た。
「なにって、そっちが先に俺を見てたんだろ」
「そ、それはさぁっ…」
「それは?」
「それはっ…その…」
いつもしゃんと背筋を伸ばしてハキハキと話す櫻井とは別人みたいに、モゴモゴと口のなかでなんか言って。
でも結局はなにも言えずに、俯いてしまう。
そんな姿も、スゲー可愛いと思う。
「なんだよ?聞きたいことあるんなら、聞けば?」
どんぶりの中の麺を食べもせずに箸でぐるぐる巻いてる櫻井に、そう言うと。
チラッと横目で俺を見て。
細くて長い息を吐き出し、意を決したように顔を上げた。
「あのさ」
意思の強そうな、真っ直ぐな瞳が俺を貫く。
綺麗だな…
素直に、そう思った。
「…なんで、代わったの?メイド」
「え…?」
「なんで、代わってくれたの?」
その目に見惚れていて。
思わず聞き返した俺に、もう一度同じ質問を投げてくる。
一瞬だけ、誤魔化そうかと思ったけど。
「…嫌だったから」
誤魔化すのは、やめた。
その真っ直ぐな眼差しを
ちゃんと受け止めたいってそう思ったから
「えっ…?」
「櫻井のあんな格好…みんなに見せるのが嫌だった」
俺も、櫻井の目を真っ直ぐ見つめながら答えた瞬間。
櫻井の顔がぐにゃっと曲がって。
「っ…帰るっ!」
突然、そう叫ぶと立ち上がった。
「ええっ!?」
「ごちそうさまでしたっ!」
財布のなかから千円札を取り出し、叩きつけるようにテーブルに置いて。
くるりと踵を返すと、店をダッシュで飛び出していく。
「あ、ちょっとっ!親っさん、ごちそうさまっ!」
俺も慌てて千円札を投げて、その後を追う。
「潤ちゃん、おつりは!?」
「また今度もらいにくるからっ!」