第3章 Kissから始めよう
「じゃ、俺もや~めた」
えっ!?
松本も立ち上がって、徐に俺の手首を掴んだ。
ええっ!?
「一緒にバックれようぜ!俺、今猛烈にラーメン食べたいんだ。付き合ってよ!」
「ラーメン?」
「うん!後夜祭は、俺たちふたりかいなくても、村上がしっかり盛り上げるよ!…ほら、行こ!」
「…うん…」
……後夜祭のステージがある中庭を避け、松本と手を繋いで、
まあ、正確には、松本に手を引かれる形だけど。
俺たちは学校を脱出することに成功した。
走る彼に付いて行くのがやっとで、息が上がる。
学校から聞こえる騒がしい音が段々遠ざかる。
陽の落ちた帰り道、松本とふたりで歩いている。しかも、手を引かれたまま…
………俺さ、お前のこと、
『好きだ』って…
そう言ったんだよ?
こんなことされたら、ちょっと期待しちゃうじゃん!
勘違い……しちゃうじゃん…
………『好き』は…どんどん、大きくなっていくもんだって、初めて知った。
でもそれは、正直、息が苦しくなる気持ちだった。
松本が掴んだ手首が熱くて、
痛かった。
「お、いらっしゃい!」
「親っさん!いつものやつ、ふたつ!
…あ、ライスもつけてね!」
「はいよ!」
松本が行きつけだという喜多方ラーメンの店。
親父さんは、どんぶりを出しながら無遠慮に、じろじろと俺を見て、
「今日はまた、美人さんをつれてきたな!」
と言った。
「いや、俺、美人さんじゃ…」
「ははは、潤が連れてきた中じゃ、ピカ一だな!」
「だろ〜♪」
親っさんと笑い合う松本の横顔を見つめながら、俺は、答えなんか要らないって、そう思って割りきった気持ちが、ゆらゆら揺れるのを感じていた。
聞いてみたい……
どうしてメイド、変わってくれたの?