第3章 Kissから始めよう
松本を含むメイドたちは、予想をはるかに超えて好評で、2日間の文化祭公開日で予定した約3倍の売り上げを記録した。
模擬店をやった他のクラスの委員からは、お菓子と飲み物くらいでズルいと、文句を言われる結果になった。
「ほい。お疲れ」
「あ、おう…サンキュ…」
片付けが進む教室に、着替えを済ませ戻って来た松本に三ツ矢サイダーを手渡した。
「マジで、くたくただよ~」
「大人気だったしな…松本、凄い綺麗でびっくりしたよ」
「………」
「あ、そうだ、これ…送るよ…」
俺はスマホを出して、昨日撮ってもらった画像を探した。
「ほら、これ…」
「これっ」
俺のスマホの画面を見た彼は固まった。
休憩時に、村上が無理矢理撮った俺と松本とのツーショット。
完璧なメイドが、クラスTシャツ姿の俺の肩を抱き寄せている1枚…
嬉しくて、夕べずっと眺めていたやつ…
松本にも持っていて欲しくて。
「い、いらね~し…こんなの…ハズいわ…」
そっか…そうだよね…
嬉しいのは俺だけで、松本にとってはもう忘れたいことなのかもな…
でも…
色んなお客さんや友達と、サービス精神たっぷりに頬を寄せて写メに収まってたから、俺とのやつも…
って思ったけど。
「そっか、だよね~…」
松本は何も言わずに、サイダーをゴクゴク飲んだ。
「よし!俺も片付けてくるわ!おまえは、もう少し休んどけよ…じゃ…」
「ま、待って!!」
立ち上がった俺の手首は、松本が強く握って引き戻した。
「なに?」
「あ、いや…それ…」
「…どれ?」
「だから…その…写メ…も、貰っとくかな…」
「え…」
驚いて固まる俺に、
「いや、その、1枚くらいさ、記念にとっといても、いいかな…って思って…
ほ、ほら!出して、スマホ!」
「あ、うん…」
スマホ同士を近付けると、俺の大切な1枚は、秒で松本のスマホへと飛んでいった。