第1章 協奏曲 ─concerto─
まあ、この嫉妬深い人が、全然妬かなくなったら終わる気もするからね…
愛情だと思って甘んじて受け入れるよ。
「このまま、直行でいいかな?」
「いいよ。つ~かさ、今日ってどこ行くの?まだ教えてくれない?」
「どこって、地名で言ったら池袋」
「池袋?池袋のどこ~?レストランとか〜?」
「いや、そうじゃなくて…まあ、付いて来てよ♪」
目的地は、西口を出て直ぐ。
一度下見に来たから、間違うはずない。
「着いた。」
「ここ~?」
「ここ♪」
「ホテルじゃん!」
「そ。ホテル。入るよ…」
きっと智くんは、な~んだホテルか…しかも普通のビジネスホテルじゃん…
くらいに思ってるだろう。
だけど、部屋に入ったらきっと喜んでくれるだろう。そうすれば俺の努力も報われる。
オープンしてから大人気で。奇跡的に、今日予約できたんだから…
「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」
「櫻井です。」
「はい、櫻井さま。お待ちしていました。」
「何か分からない事や必要なことがありましたらフロントに連絡してください」
「ありがとう。そうします…」
部屋のカードキーを受け取り向かったのは、最上階。
「わあぁ~!綺麗なとこだね~真っ白な部屋!広いし…それに…」
見れば、ベッドの上にバラの花びらでハートが描かれていた。
実際見ると、こっ恥ずかしいな、この演出…
「ほら。こっち来て~」
照れ隠しもあって、ベッドには触れず、俺は室内にある階段を智の手を引いて登った。
「えっ?これって…」
そう。
そこに現れたのは、都会の中のオアシスとでもいう様な異空間。
「キャンプみたい~!」
「うん。面白いだろ~?」
そこはグランピングが楽しめる部屋で、バーベキュー用の窯には炭が赤々とスタンバイしていて、テーブルには所狭しと材料が並べられ、お洒落なワインクーラーには冷えた赤ワインが水滴を湛えていた。