第1章 蒼い瞳
「でもあの子、字は書けるのよ?わざわざ代筆を頼まなくても…」
「…………………」
「……事情が、あるのね?」
「…困ったなぁ……こればっかりは…」
頭を抱える社長から手紙を借り、カトレアもその字を追った。
『実は、手紙を出したいんです。
それを、出来ればヴァイオレットに書いて欲しくて。
両親にどうしても届けたい手紙です。
どうか依頼を受けてください。お願いします。
ミオソティス』
コツ、コツ、コツ…
「……これが、どうかしたの?ヴァイオレットご指名の、普通の代筆依頼じゃない」
「…………!」
「………受け付けられないんだよ、この依頼は」
ギィィィ
「どうしてですか?」
「…!ヴァイオレットちゃん」
「ただいま出張代筆より帰還しました。その手紙、私への代筆依頼なのですよね?」
「…いや」
「たった今、カトレアさんがそう仰いました。私を指名した代筆の依頼だと」
「……ダメなんだ。この件だけは、どうしても。分かってくれ、ヴァイオレットちゃん」
「…………せん…」
「……?」
「届けなくていい手紙など、ありません」
ヴァイオレットの真っ直ぐな目が、必死の思いを社長に訴えかける。蒼い瞳の奥には、手紙を届けたい強い意思があった。
それでも。
「絶対に届けられない手紙も、あるんだよ。ヴァイオレットちゃん」