第4章 紫苑の空
出張代筆が終わり、ヴァイオレットはC.H郵便社に帰った。
社長室のドアを開けると、ホッジンズの他にアイリス、エリカ、カトレアがそこに居て、アイリスがヴァイオレットに抱きついた。
「馬鹿!心配したんだからね!!」
「…すみません」
「よかった……帰ってきてくれて……」
アイリスもエリカも涙ぐんでいる。
「ヴァイオレットちゃん」
「はい」
社長の声でアイリスは離れ、ヴァイオレットが机に近付く。ホッジンズの表情からは、怒っているのか心配しているのか読み取れない。
「まずは出張代筆ご苦労様。黙って行くから心配したんだよ」
「…申し訳ありません」
「俺は、あの依頼を断るつもりだったんだ。いくらなんでも、この世に居ない人へ手紙は届けられないからね」
「社長はご存知だったのですね。お嬢様のご両親がもういらっしゃらないことを」
「彼とは同期だったからね。……それで?」
「庭に、このヒペリカムがたくさん咲いていて、客間には、ご家族で撮った写真が飾られていました。食器棚には、今でもご家族分の食器が取り揃えられていました。………きっと、寂しかったのです」
「さみしかった?」
「大切な人の痕跡や想いが溢れているのに、それを受け取るばかりで、反対に想いを伝える手段が無かった…」
お嬢様は、私でしたーーー
そう結んだヴァイオレットは、そっと胸元のブローチに触れた。