第4章 紫苑の空
「私は反対です!」
「反対?」
グロリオサ中佐が、ディートフリート海軍大佐に噛み付く。大佐の執務室に響いた中佐の怒鳴り声は、重厚な扉の外にまで漏れ出ていた。
「孤児を保護するだけならまだしも、武器として扱うなど!人のやるべき事ではありません!!」
「あの娘のことを言っているのか。奴は私が拾ったものだ。私がどう使おうと貴様に関係ない」
「人間としての話しをしているのです!!!」
ダンッ!と机に拳を振り下ろし、中佐の発する言葉に熱が篭(こも)っていく。あの娘と同じ歳頃の娘を持つ親として、少女を戦場に連れていくなど、看過できるものではなかった。
「……貴様、誰に口を聞いている」
「…っ」
「あれは戦うことしか知らん。読み書きも出来ず話せもしない。言葉も分からんものがどうして人間だ。笑わせるな」
「しかし!」
「あれが人間だと言うなら、戦争で敵を殺し合う我々はなんだ?言葉を尽くし話し合える相手であろうと、敵対するものであれば躊躇わず殺す軍とはなんだ?………よく考えろ、グロリオサ・アングレカム陸軍中佐。過ぎた口を叩けば全てを失うぞ」
「………それでも、あの少女を武器として従軍させるのは反対です」
「よく分かったグロリオサ・アングレカム陸軍中佐。下がれ」
グロリオサ中佐が執務室から出ていくと、大佐は苦々しげにドアを睨みつけた。大佐の弟、ギルベルト・ブーゲンビリア陸軍少佐に少女を預けた夜のことを思い出していた。
「……道具は、道具だ」