第3章 ヒペリカムの咲く庭で
大きく緩やかな螺旋の階段に灯りはない。
腹の底から響くような地鳴りと、ぼんやりした怒号が反響している。
「………………ここは」
ドォー……………ン、パラパラパラ……
「……ハァ………ハァ…」
「!少佐!!!」
ヴァイオレットの足元で、瀕死の重傷を負ったギルベルトが壁に身体を預けて荒い息をしている。スカートが汚れるのも気にせず、少佐の前で跪(ひざまず)いたヴァイオレットには、剥き出しの義手がついている。
「……ヴァイオレット…」
「少佐!!」
感謝際の夜、エメラルドグリーンのブローチを見たヴァイオレットに、それは美しいだと教えたギルベルト。ヴァイオレットは、同じ色をした少佐の瞳は出会った時から美しいと伝えた。
その右目も今は潰れ、顎まで垂れた血が粘りながら滴っている。
「……いけ…いってくれ、ヴァイオレット……、…っ」
「……っ、少佐を置いては行けません!!!!必ずここから助けます!!」
「………っ、いけ!ヴァイオレット!!」
「嫌ですっっっっ!!!!!」
少佐を抱き起こそうとしているのに届かない。
纏っているのはフリルのスカートと蒼い上着ではなく、血だらけでボロボロの兵服だった。
すぐ側には、ヴァイオレットの腕だったものが転がっている。
「腕がなくても歯があります!!引き摺ってでも少佐を必ず」
「もう行くんだ!ヴァイオレット!!!」
「………っ……っ、しょうさ……っ、いやです…っ、い゛やです……っ!!しょうさ!!!」
少佐ーーーーーー………