第3章 ヒペリカムの咲く庭で
『失意の底から戻ってきた天才劇作家が織り成す感動の新作オペラ』
「……」
失意の底、ねぇ。
何があったのか知らないけど、そんな事で書けなくなるくらいなら、天才なんて囃し立てなければいいのに。
ペラリ
『王子とお妃を結んだ美しい手紙の数々が、博物館にて特別公開』
あぁ、なんかそんな事もあったわね。
ライデンのドールだった気がするけど、誰だったのかしら?…まぁ、他人のラブレターなんか興味無いわ。それより、
「……ヴァイオレットは、来てくれるのかしら…」
コンコン。
「ん、誰だろ、こんな時間に…」
コツ、コツ、コツ…
もう22時になる。
ドアを開けるか迷ったけれど、ここは用心するに越したことはない。
「……どちら様ですか」
「こちらはアングレカム家のお屋敷でしょうか」
「………そう、ですけど……あなた、誰?」
お待たせ致しました、と外の誰かが、玄関前に何かを置いた。
「お初にお目にかかります。お客様がお望みなら、どこでも駆け付けます。自動手記人形サービス」
「…!!!」
ヴァイオレット………!来てくれたんだわ!!
ガチャッ!
「ヴァイオレッ」
「ヴァイオレット!会いたかった!!」
「…ミオソティス様でしょうか」
来てくれたことが嬉しくてヴァイオレットへ飛び付いたのに、ヴァイオレットはあの頃みたいにドライだった。私だけが会いたかったのかと思うと、少し淋しくなった。
「そう、ミオソティスよ!あまり親交はなかったけど……。遠いところまで来てくれてありがとう!入って入って!」
「はい」
室内へ誘(いざな)うために握ったヴァイオレットの手は、とても機械的だった。