第1章 蒼い瞳
ノックしたヴァイオレットの部屋の前で、ちょっといい?と、カトレアが声をかける。
「手紙を届けたいヴァイオレットの気持ちは分かるわ。あなたは、どんな場所でもどんな相手でも、手紙の代筆を受けてきた」
この話し、本当は社長が話すべきなんだけどね、とドアに背もたれる。
「手紙っていうシステムは、届けたい誰かがいて、届けられる相手がいる。そのどっちが欠けても成立しないものなの。ミオソティスが届けたいと思って、ヴァイオレットが手紙を書いても、それは手紙として成立しない。ただのメモ書きか、日記のようになってしまう。今回はそういう依頼なの。……あなたにとっても、きっと辛いだけで終わってしまうわ。だから、行かないで欲しいの」
部屋からの返答はない。
まだ陽は高い。寝る時間でもなく、仕事部屋にもいない。どこかへ出るとも聞いていない。
「あの子、まさか…!」
コンコン、と再度ノックしてドアを開ける。
「……っ」
誰もいない部屋。
窓際のぬいぐるみだけが、ポツンとカトレアに背を向けていた。