第7章 目覚めよ、汝
「……っんぅ!?」
唇がくっついた瞬間、ガシャン、て、屋上のフェンスが鳴った。
「………った」
フェンスの網にぶつかった背中に走る痛み。
だけど。
それでもお構いなしに蓮は乱暴に唇を奪っていく。
「れ……っ、ん!!」
離れては、また奪われて。
吐息すら許されないキスに酸欠でクラクラする。
倒れそうに震える足の間に入り込んだ蓮の右足が、ただ唯一、あたしを支えてた。
「ねぇ」
漸く唇が解放された頃にはすでに、なんにも考えることなんて出来なくて。
「これくらいで溶けちゃってる真白に、俺を子供扱いする権利なんてあるの?」
ただずるずると、フェンスを滑り落ちていく以外に出来ることなんてなかった。
冷たい目。
あたしを見下ろす蓮の冷たい目。
見たことある。
………ああ、そうだ。
あの時と、一緒だ。
力の抜けた体をなんとか奮い立たせて。
蓮と、向き直る。
そのまま蓮の手をとり。
首へと、回した。
「真白?」
「いいよ、殺して」
「は?」
「ムカついてんでしょ。その目、あの時と一緒」
「何言ってんの?」
「首締めたじゃん。本気だったよね、あれ」
「………」
「締めていいっつってんの」
「……やっぱりまだ薫、忘れられないんだ」
「バカじゃないの?」
「は?」
「そうだよ、薫が好きだよ。薫以外に知らないんだもん。ずっとずっとあたしには薫だけだったんだから。忘れるなんて出来ない。………でも好きなの。勘違い、なんて、認めてさえもらえないのも仕方ないって思うけど、でも好きになっちゃったんだもん!どーしようもないじゃん!」
仕方ないじゃない。
自分でも良く、わかんないんだから。
「だから、殺していいよ」
「意味、わかんないんだけど」
「あたしの命、あげるっつってんの。そしたら蓮、目、覚ますんでしょ」
「………俺の話聞いてた?」
ため息と一緒に首から離れようとする手を、掴む。
「真白」
「あたしも一緒だよ。あんたが好きだから、死んで欲しくない」