第6章 カレとカノジョと、僕の事情
「…………」
なん……。
なん、で。
「真白の感情は僕のものだから。言ったよね、繋がってるって。感情も感覚も、共有してるんだよ」
「………」
「真白が悲しいと、僕も哀しいよ」
泣きそうに笑って。
れいはあたしの頬へと、手を伸ばす。
「………真白、僕をちゃんと見て」
………『見て』。
たぶんこれが、この子の感情。本音。
誰からも気にも止めてもらえなくて。
誰からも見てもらうことすら、出来なくて。
ずっとずっと、ひとり、で。
偉そうに大人びても。
ドキっとするくらい大人な姿してても。
中身は、12歳。
彼の時間は、止まったままなんだ。
………あたしの、時間も。
薫がいなくなって止まった時間。
誰も何もどーでもよくなって。
見ることさえ、嫌になって。
世の中すべてから、目を背けた。
どーでもいい、なんて強がって。
無気力な、ふりをして。
「………ほんとのあんた、見せてよ」
「ぇ」
「今まで見てきたあんたは、本物?作り物?コロコロ変わる表情も、子供みたいな表情も、大人びた表情も。全部あれは、あんたじゃないでしょう?」
「…………」
「今のれいのが、いい」
「ぇ」
迷子の仔犬みたいな目、して。
怯えて。
びくびくしてて。
きっとこれがこの子、なんだ。
「……………蓮、だよ」
「ぇ」
「名前、『蓮』」
「れ、ん?」
「そう、『蓮』。僕の名前。れい、もけっこう気に入ってたんだけど」
「………蓮」
………動いた、気がした。
止まりかけてた時間。
薫との時間。
絶対忘れることなんて出来ないけど。
動いた気がした。
違う。
ほんとは、止まってなんかなかったのかもしれない。
傷付いたふりをして。
無気力なふりをして。
世の中すべて敵にまわした悲劇のヒロインぶって。
あたし。
ほんとは。
気に止めて欲しかった。
薫を失ったどん底から引き上げて欲しかった。
自分で這い上がる力、ちゃんとほんともう、持ってるのに。
誰かに甘えたかった。
助けて欲しかった。
「………いいよ、泣いて」