第6章 カレとカノジョと、僕の事情
薫は、小さな頃からのお隣さんで。
男の子に苛められた時助けてくれた。
勉強をいつも教えてくれた。
大好きな大好きな、お隣のお兄ちゃん。
お母さんに怒られた時。
友達とケンカした時。
いつも薫のベッドに潜り込んで、暖かい腕の中で朝を迎えた。
それは至極当たり前の日常で。
悪いことなんだと、思うことなんてなかった。
お互いの親だって仲良しで。
兄妹みたいだって。
そう、言われて育ったから。
だけどある日。
お母さんから突然言われた。
「薫くんのベッドには入っちゃ駄目よ」
「薫くんの部屋に夜ひとりで訪ねたら駄目よ」
意味がわからなくて。
ただただひとり、泣きわめいた。
だけど薫は親たちの言葉を素直に受け入れて。
その日以来、薫はあたしの部屋に来ることもなくなった。
「薫」
「また今度な」
「薫」
「友達と、約束あるから」
「……かお、る」
「ごめんな真白。もう遊んであげられないんだ」
ショックだった。
大好きな薫が、いなくなった気がして。
なんで?
どうして?
がずっとずっと回って。
薫が家に女の人を連れてきた時、糸がプツリと、切れた。
「………真白」
何日も何日も、無気力で。
食欲も睡眠にさえ無欲で。
何もやる気が起きない。
息を吸うことでさえ、鬱陶しい。
そんな日が続いたある日。
「真白、結婚しようか」
薫が突然、部屋に訪ねてきた。
「かお、る?」
「そうだよ。気付いてあげられなくて、ごめん。真白の気持ちはずっとずっと知ってたのに、逃げてごめん」
「薫、なの?」
「俺も真白が大好きだよ。だから高校卒業したら、結婚しよう?」
「結婚?」
「そしたらずっと一緒にいられるよ」
「薫と、ずっと一緒?」
「だから真白、戻ってきて。ご飯食べて、受験して、ちゃんと高校卒業しよう?」
「………卒業、したら」
「そう。まずは高校、入らなきゃ」
「………うん。頑張る」
『頑張るよ、薫』
薫が現実に引き戻してくれた。
薫が全て。
薫がいたから、生きてこれたの。
だから。