第3章 気持ちいいって言ったら許してあげる
「ねぇ」
「んー?」
隣でてくてくと歩くあたしよりも遥かに背丈の高い偽イケメン、を、上目遣いで覗き見る。
「………名前、なんてゆーの?」
いつまでも幽霊くん幽霊くん、ってゆーのも、いささか呼びにくい。
「………」
「名前」
「………ないよ」
「ぇ」
「忘れちゃったもん。名前なんて」
………自分の名前、あたしも死んじゃうと忘れちゃうのかしら。
「………」
「まぁ、いいわ、別に」
「真白の呼びたいように呼んでよ」
呼びたいように、ってゆってもなぁ。
うーん、と腕を組みつつ悩んでいれば。
「真白ーっっ」
聞きなれた声が後ろから猛スピードで近付いてきたんだ。
「………雪、雛」
元気に後ろからバシン!!と勢い良く叩く雪村の後ろで、おくゆかしくグーにした手を口元に添えながら笑う、雛。
正反対の性格だけどこのふたり、小学校からの腐れ縁だとか。
「真白ー、あんた復帰そうそう早退したくせに堂々と浮気なんてしてたの」
「はぁ?」
「雪ちゃん、声おっきいよ」
しー、と本気で困り顔する雛にまで、「気にすんな」とかとか、豪快に笑って見せる雪。
思わずため息ひとつ。
見えないは見えないで厄介なくせに、見えてもやっぱり厄介だわ、この子。
じと、と横目で睨み上げれば。
「俺?」とか、呑気に自分を指差す始末。
「この子は、違うの」
「この子ってあんた、どー見ても歳上だけど」
「………」
コホン、と咳払いひとつ。
「この人、は、ぇーと、親戚の人で。ゆうれ……っ」
「ゆうれい?」
しまった。
名前。
名前……。
「……ゆれぎ……、ゆれぎ、れい、で、幽霊、ってよく、昔からかってたんだよねー」
「えぇ?全然幽霊って感じしないけど」
「いやぁでもなんか儚げってーの?幸薄そうな顔してるよねー」
「……!!雪ちゃんっっ」
「………」
初対面とか関係ないのね、雪村。
ぶれないわ、ほんと。
「………あー、うん、良く言われる。真白の友達?いつも真白がお世話になってます」
ペコリ、と頭を下げる『れい』に対し。
「お世話してます」
とこれまた深々と頭を下げる友人ふたり。