第7章 目覚めよ、汝
「大丈夫。一緒に生きるんだよね?」
「………待ってるから。ずっと真白のこと、待ってるから。」
「うん」
「会いに来て。ここで待ってるから。ずっとずっと、この場所で待ってるから」
「………うん」
「………真白、愛してる」
コツン、て。
額が合わさって。
蓮と、目が合う。
唇が近付いてきて。
目を閉じた、瞬間。
頬に感じていた蓮のぬくもりが、消えた。
「あ………」
ペタン、て。
座り込んだコンクリの床は。
ヒヤリとするくらいに冷たくて。
比例するように。
暖かさのある涙が、床へと消えていった。
「………間に、あった?」
「さぁな」
「…………」
「妙な気配はしないから、契約は成立してないはずだ」
「ぇ」
「契約が成立しなければ代償は支払う義務はない」
「………そ、っかぁ」
「お前は?シロ」
「シロじゃない、真白、です」
「どっちでもいい。どーする?」
「なるようになるしか、ない、っかなぁ?」
だって。
「あたし、妊娠してないでしょう?」
「………さぁな」
「帰るの?」
「俺にも大事な人がいる。そろそろ目を覚ます頃だから」
最後まで無愛想に、無表情に。
彼はくるりと、踵を返した。
「…………ありがとう」
蓮が生きる道をくれて。
正しい時間を、与えてくれて。
「……………」
思い残すことはもう、ない。
「………シロ」
だから。
真白だってば。
って、そう、正そうとした、瞬間。
「ぇ」
「生憎悪魔には情など存在しない。あいつは俺のまいた種、後始末しただけだ。お前は、違う」
頭と体が危険を察知する、前に。
「あんたの存在は、想定外。悪いな」
あたしの身体は宙に、浮いていた。