第19章 今できること
「ほんと、舞ちゃんがマネージャーで良かったってつくづく思う。」
急にそんなこと言われてびっくりした。
「あと2つで甲子園。ここまでこれたんだな…」
「まだまだ終わりじゃないよ。これからが勝負!疲れも抜けきってないでしょ?早く寝なよ。
あ、手は大丈夫?」
痺れていたって言う右手にソッと触れてみる。
「今は全然平気。」
豆のできたゴツゴツした男っぽい手。
とても大きい頼りになる手。
去年の悔しさから1年。
御幸くん達が積み重ねてきた努力、練習が報われて欲しい。
「そんな心配しなくても大丈夫だって」
左手で髪の毛をワシャワシャとされた。
「気づいたのは舞ちゃんだけ。」
「視力は2.0です。」
「目、いいんだ。俺眼鏡ねぇとこのくらい近づかなきゃ舞ちゃんの顔見えねぇ」
眼鏡を少しずらして、顔をズイッと近づけてくる。
その行動にびっくりして、思わず後ずさった。足元が滑って、尻もちをついたときに、後頭部を何かでぶつけた。
「舞ちゃん?!」
「ーーーーっ、いったぁ……」
「急に視界から消えないで」
ぶつけた後頭部を両手で抑える。御幸くんの言葉に返事ができないくらい悶絶していた。
「どこぶつけた?ここ?見してみ?」
背中から引き寄せられて、目の前には御幸くんの胸元。
「あ、コブになってる。」
冷やしとこうといつもとは逆にアイシングを作ってくれて、さっきと同じ格好、即ち目の前に御幸くんの胸板があるわけで……
御幸くんにアイシングで、頭のコブを冷やしてもらっているという。
マネージャーなのに、選手に迷惑かけていたたまれなくなってきた。
体温を感じるくらいに近くて、私のドキドキが伝わってしまいそう。
「あの、もう…大丈夫だから…そろそろ…」
「ダーメ。頭の形変わっちまうぞ。」
うー、もう限界。
御幸くんの胸板を強めに押し返した。
「もう恥ずかしいから…ありがとう。あとは寮帰って冷やす。」
自分でも顔が赤くなってるってわかるくらい火照ってる。
指摘される前に、また明日ねと言って食堂を出た。
ハァァァ…緊張した…。
食堂を出てすぐに足に力が入らなくなってズルズルと壁を伝って座り込んだ。