第16章 倉持の気持ち
「入学して早々に戦線離脱したやつのセリフとは思えねぇな」
「っ、ばかか!俺はあいつのことなんて…」
「やっぱりな、思ったとおりだ」
嵌めやがった、ちくしょう
そうだよ、一瞬いいなって思ったことあったさ。
だか、野球をするために地元離れたし、それなりの覚悟があってここに来た。
それに御幸と一緒にいて、笑い合ってる矢代の顔見たら、それ以上あいつに対して何も感じなくなった。
「お前、ほんと性格悪いな」
「知ってるさ。」
余裕こいてるのも、今のうちだからな。
亮さんのことだ、いつ仕掛けてくるかわかんねぇぞ。
矢代も、そろそろ気づくべきだと思う。
人懐っこさとか、誰にでも優しく接することは悪いことじゃない。
ただ、その距離感が時に相手に勘違いをさせるということ。
「倉持くん!」
ほらな、その距離感だよ。
パーソナルスペースが狭いんだ。
ボディソープかはたまたシャンプーかはわかんねぇが、いいニオイさせてんなよ。
笑顔で俺の名前、呼ぶな。
いちいちプレー褒めんなよ。
どんなに小さい長所でも見つけてきて、徹底的に褒め倒すな。
無防備に青心寮に来るな。
自覚しろよ、自分が人から好かれるって。
頼むから。
休み時間は御幸の席に移動して、笑い合ってる。
そんな姿を見せつけられて何度かイライラした。
御幸が、しっかり捕まえておいてくれたら良かったのに。
そしたら、誰も自分にもチャンスがあるなんて望みが薄いこと思わなくてすむのに。
おれには、関係ねぇけどな。
その夜、自販機の所で、亮さんと矢代が二人きりでいるのを目撃した。
確信に変わる、亮さんの矢代への気持ち。
「じゃ、亮介先輩おやすみなさい。明日も暑くなりそうなんで水分補給しっかりしてくださいね。」
「言われなくてもわかってる、生意気。
おやすみ、マネージャー」