第16章 倉持の気持ち
「盗み聞きが趣味だなんて知らなかったなぁ…」
ゲッ…気づいてる…この人は俺がここにいる事気づいてる。
「亮さんすいません。たまたま…」
「笑うなら笑えばいい。見込みないのにって」
笑うわけねぇじゃん…
「望みがないってちゃんとわかってる。気づいてた?御幸の名前出すとあからさまに顔赤くするの。本人は無意識なんだろうけどね。
でも、このまま黙って御幸にやるつもりもない。
相手をかき回すの得意だし。」
「亮さん…」
「今はまだ何もしないけどね。今はね…」
甲子園、決めてからってことか?
矢代の事を意識した事のあるやつなら、一度は思っただろう。
御幸がダメなら…自分はもっとダメなんじゃないかって。
それくらい御幸は矢代の隣を独占してた。
「亮さんは、なんであいつを…」
「言っちゃうのもったいないけどな、倉持ならいいか。」
「あの子だけだよ。家族以外で僕と春市を別の人間として扱ってくれるの。
あれだけ優秀な弟を持つとね、さすが春市くんのお兄さんとかよく言われる。春市はもっとひどいんじゃないかな。さすが亮介の弟だって何回言われたかわからないよ。
野球部だって、小湊弟とか小湊兄とかさ。
でも、あの子は最初から小港春市として接してくれてる。」
いつも余裕の亮さんが別人に見えた。
「御幸もね、勿体つけないで白黒はっきりさせたらいいのに」
「それは本当にそう思います。」
でも、俺には何も言う権利はねぇ。
結局は矢代が誰を選ぶかだ。
さっさと誰かとくっついてくれたら諦めもつくのに。
「あの子の夢と僕の夢、ここにいるみんなもそうだけど、同じ夢を追いかけてる。叶えるためには、倉持、お前の力が必要だ。頼りにしてるからな。」
「行きましょうね、甲子園」
まずは、明日の試合勝たなきゃ市大三高とも、稲実とも戦えねぇもんな。
やるしかねぇか…。
目の前の相手をひとつずつ。
駆け上がっていくしかねぇ。
負けたら泣くだろうからな。
あいつの泣き顔は見たくねぇや…