第15章 舞台へ
御幸くんが平気ならと、自分の首から外して御幸くんにかけた。
「試合の時でいいって。」
「兄貴も御幸くんに持っててもらえたほうが嬉しいと思う。グラウンドに連れてってあげて。
いつまでも兄貴の形見に縋ってるわけにもいかないし。
私には、グローブもあるし。」
キャッチボールとか外野でボール拾いをする時に使ってるグローブは兄貴のだ。
「行こうな、甲子園」
首からぶら下げたお守りに向かって御幸くんがそうつぶやいた。
対米門西高。
初戦の先発投手とは違う。
アンダースローの投手だった。
1回表、青道は珍しく三者凡退。
投球練習の返球を取り損ねて、弾いた上に蹴飛ばしちゃった。
降谷くんらしいといえばらしいんだけど。少なからず緊張してるのかな。
立ち上がりだよ、立ち上がり!
みんな後ろにいるよ、降谷くん。
緊張の第一球!
振りかぶって投げた。
あーーー、御幸くんの顔の上じゃん!高いよ!
三者三振でベンチに返って行く降谷くんの背中を見ながら胸を撫で下ろした。
哲先輩からの攻撃、右シフトの守備の間を打ち砕いて2ベースヒット、ウガ先輩も内野手の間を抜いた。
ノーアウト2.3塁だよ、御幸くん。
配球表を書いている手に力が入る。
御幸くんはネクストでずっとユニホームを握りしめていた。
兄貴のお守りを握っていてくれてるんだ。
ブラスバンドの演奏する狙い撃ちが球場に響きわたってる。
その曲に合わせて、御幸くんの口元が動いた。
「歌ってる…」
初球低めのインコースのボール球を御幸くんは器用に撃ち返した。
先制し、その後スクイズとタッチアップで3点先取。
みんな生き生きとプレーしていて、3回には7点。4回には5点を重ねた。
4回裏、降谷くんがマウンドを降りて外野へ。
沢村くんがマウンドに登った。
沢村くんの公式戦デビューだ!
相手も後がないのは同じ。夏にかける思いも同じ。
これだけ点差がついているのに、相手ベンチは落ちてない。
声も出てる。
飲まれちゃいそうな声援がここまで聞こえてくる。
沢村くんの第一球。
あちゃ…
デッドボール…
すかさず御幸くんがタイムを取った。
こりゃ倉持くんのキックが入るな…。
雰囲気は悪くない。大丈夫。落ち着いて。