第15章 舞台へ
誰にも聞かれないように亮介先輩が、耳元でそう囁いた。
「ま、想像はつくけどね。」
「へ?」
「君に話があるのは、別に御幸だけじゃないよ。それ、忘れないで?」
「あの…どういう意味ですか?」
フッ…っといつもの亮介先輩の笑い方。
「とりあえず、初戦。話はそれから。頼むよ、マネージャー。」
「は、はい!」
負けたら、終わり。
3年生最後の夏が、始まる。
開会式は東西揃ってだから、260校近くが集結する。
スタンドから見ていると圧巻だった。
この中でたった2校。甲子園に行けるのは2校しかない。
クリス先輩を筆頭に偵察隊へ加わって一回戦を見に行った。
「矢代は、配球表を頼む。御幸の要望通りの配球表はお前しかつけられないからな」
「死ぬ気でつけます!」
そんなに気負わなくていいと笑われてしまう。
初戦の相手は米門西高。
チームミーティングで、情報が共有された。
先発は降谷くん。
抑えはノリくん。
監督の一言でノリくんの顔に明るさが戻った。
最近、ちょっと表情が固かったもんな。
「気合い入ってんじゃん。配球表からそれが伝わってきたよ。サンキュー!」
「そりゃもう!クリス先輩からお前しかいないって言われたら、気合い入りまくりだよ。」
降谷くんと監督達とのミーティングが終わったのか、試合の準備をしていると御幸くんがジュースを持ってきてくれた。
「どう?投手陣は。」
「ノリも役割をハッキリ示唆してもらえて、落ち着いたし、降谷は立ち上がりの心配はあるが、そこをなんとかするのが俺の役目。
沢村はクリス先輩に任してるから心配してねぇよ」
「かっこいいこと言っちゃって。ま、でも本当にやっちゃうのが御幸くんか…」
「任しとけ。」
「任したよ!正捕手!」
「なぁ、舞ちゃんがいつものぶら下げてるお守りってあいつのだろ?」
え、御幸くん知ってたの?
中学3年のときの最後の大会の前に、必勝祈願しに行ったときに買ったお守り。
今は私が形見として首からぶら下げてる。
「試合の時、貸してくれねぇか?」
「でも、これ…。事故にあったときも持ってたみたいだから…黒ずんでるの兄貴の血…だけど。いいの?」
「言ったろ?あいつの気持ちも一緒に闘うって。力、貸してくれそうだから、頼む」