第11章 嬉しそうな顔
小湊春市くんと、沢村栄純くん。
ふたりが1軍へ上がった。
ピンと空気が張り詰めた中、発表された2人。
選ばれなかった3年生が残された。
去年も経験したけど、この空気は本当に苦手。
御幸くんにポンと肩を叩かれて、気持ちを切り替えようと前を向いた。
私、だめだな。御幸くんだってきっと複雑な気持ちでいるはずなのに。
私の見た御幸くんの横顔は覚悟を決めた男の顔をしていた。
*
階段を昇ってる時、部員の話し声がした。
春市くんの1軍行きは納得できる
でも、沢村くんの1軍行きは納得できないと、グチグチ言っていた。
止めようと階段を駆け上がろうとしたら、御幸くんに止められた。
「ちょっと、なんで止めるのよ。離して!影でコソコソ言いたいこと言って、沢村くんが努力してチャンスを掴みとったのに。認められて嬉しいはずなのに、あんなに泣いて…
ていうか、担がないで!おろせーー」
「騒がない騒がない、落ち着けって」
人の事を米俵みたいに肩に担がないでよ。
ジタバタと暴れるけど、パンツ見えるぞーと飄々と言われる。
「ゾノたちがきっちり言ってくれてるだろうよ」
ここまでゾノくんの声が響いていた。
「あいつも幸せなやつだよ。先輩や舞ちゃんに庇ってもらってさ。辛い練習はこれからだからな。降谷と一緒にあいつのこともサポートしてやって?」
ヒートアップした私を教室まで運んできてようやく席におろした。
そして真剣な顔で国土館戦のスコアブックを開く。
目の下に隈を作った倉持くんが、御幸くんの所に来た。
やっぱ、沢村くん一晩中泣いてたんだ
気持ちで投げるタイプのピッチャーだから切り替えないと、これからに影響するかもしれないと倉持くんなりに心配してた。
「切り替えて見せるさ、この俺がな」
おぉ!ドヤ顔!ちょっと憎たらしいそのドヤ顔久々に見た。
倉持くんも、キィーーって、なってる。
「言ってろこの野郎、お前のそういう所が鼻につくんだよ」
「ハッハッハ、そりゃどうも」
「褒めてねぇよ!矢代もよくこいつと一緒にいられんな、腹立つだろ?」
「ないことはないけど。ほんとにそれをやってのけちゃう、有言実行の人だから、素直にすごいなって思う」