第11章 嬉しそうな顔
「あ、春市くん野手の守備位置、確認してあそこにヒット撃ったの?」
バックフォーム体制だった守備がさっきのファールを受けて、長打警戒した所に、狙ったようにライトに打ち返した。
「だから、君生意気。」
「ひゃい、ごめんなさい。」
今度は両頬を摘まれる。
「ははは、随分遊ばれてるな」
「よく伸びるねって笑われた」
「どれどれ」
みょーーん、と御幸くんまで私の頬で遊ばないで。
四球でランナーを出してから、揺さぶりをかけられ続けてる。
クリス先輩が何度も牽制球を投げてる。
「御幸くん、クリス先輩の肩、大丈夫かな…」
クリス先輩の肩のこと、知ってる人が相手チームにいたりしたら、そこをついてくるかもしれない。
不安になって、御幸くんのユニフォームの裾をギュッと握った。
完全に盗まれて、キャッチャーからセカンドへ。
引っ掛けたのか逆球になってしまった。
送りバントのフィルダースチョイスで1.3塁。
初球スクイズ失敗、ランナータッチアウト。
「ははっ、あいつやりやがった!
覚えてねぇ?東先輩に投げた時もボールを地面に叩きつけて軌道修正したろ?キャッチャー泣かせだよなぁ。捕る方の身にもなれってんだ」
ウエイトボールってなんすか?って言ってたから、あれは本能で危機回避したって事。
「舞ちゃんも思うだろ?おもしれーやつだって」
ワクワクした笑顔を見せられて、こっちまでなんだか嬉しくなる。
御幸くんの笑顔ってそんな力がある。
最後のバッターを三振に取ってマウンドで沢村君が吠えていた。
沢村くんの投球に感化されたのか、降谷くんが走ってきていいかと御幸くんに聞く。
「走れ走れ、死ぬほど走れ。お前スタミナねーし。
はい、無視ー!!」
「御幸くん、意地悪だねぇ…」
本人も気にしているところをわざわざ突くんだもん。
「投手は走ってなんぼ。」
レギュラー陣の話題は誰か1軍に上がってくるか
「1軍に上がった所でレギュラー確実じゃねぇ
大変なのはこれからだ」
地獄の夏直前合宿。
これは本当にマネージャーの私達もきつい。
練習に戻っていくレギュラー陣の背中を見送った。