第10章 怒り
高島先生と沢村くんは、昨日出かけてた。
たぶんクリス先輩の所。
何故練習を早く上がっているのが分かれば、沢村くんのクリス先輩への誤解も解けると思う。
「敵わないんだよ、あの人には、マジで。」
「野球を誰よりも知ってて、1年の怪我だって言われた時も今だって、選手として復帰する事を諦めてないなんて、私もクリス先輩の事すごいって思う。」
「だろ?一人で怪我と闘うなんて俺にはぜってぇ無理。」
「今だって甘えたさんだもんね。」
「うっ…反論できねぇ。舞ちゃんにしか弱ごと言わねぇから許してよ。」
御幸くんの髪の毛が、首筋にあたってくすぐったい。
御幸くんがそんなふうに言うのもとてもくすぐったい。
「しょうがないなぁって言ってあげたいけど、今だけね」
「うん、今だけ。」
「舞ちゃん」
「なーに?」
私を呼ぶ御幸くんの声がいつもよりかなり甘くて戸惑うのを隠した。
誤解が解けた沢村くんは今度はクリス先輩に付き纏う様になった。
「まーた追いかけられてる、クリス先輩も大変だ」
「舞ちゃん、何してんの?」
休み時間廊下側の窓の外、師匠と呼んで追い掛け回してるのを眺めていたら御幸くんが私を包み込むみたいに窓の縁に手をついた。
「近いー、退いて。」
「そんな乗り出すように見てたら、スカートの中、見えんぞ」
耳元でこそっと教えてくれた。
そういうことか…自分の身体で隠してくれたんだ。
「ごめん…お見苦しいものを…」
「沢村見てたんだ。あいつ、変わり身はえー」
「仲直りしたの?」
「何も言ってこねぇけどな。そだ、今度降谷に指先のケア教えてやって。」
「うん、前もちょっと言ったんだけどね。実践してくれてるのかな…」
あれだけの豪速球を投げるんだもん、指先にダメージがないはずない。
ちゃんとケアしてくれてたらいいけどなぁ。
A面、B面で別れてそれぞれ練習試合。
私は春乃ちゃんにスコアの書き方を教えていた。
「そう、ストライクが○でボールは―ね。うん、あってる!すごい!
今日は最後まで書いてみてね。」
「わかりやすく教えてもらってありがとうございます」
降谷くんがタイムを取った。
グローブで指先を隠しながらベンチに帰ってきた。