第10章 怒り
「怒ってる?」
「怒ってる!」
少し前にスコアブックは?って聞かれて高島先生が持ってるって答えた。
グラウンドが見渡せる部屋。通称折檻部屋。私はそこの近くで片付けをしていた。
その部屋に御幸くんが入っていく。
「お前、最高!」
と、笑い声が聞こえた。
かと思えば…ドン!と何かが壁に叩きつけられる音。
今中にいるのは、高島先生と御幸くんと沢村くん。
部屋から出てきた御幸くんと目があって。
さっきの言葉を発した。
えぇ…何かあったの?
寮の方へと足を向ける御幸くんの後を追おうかどうしようか迷ってると、白洲くんが行ってやってと言ってくれた。
コンコン、と御幸くんの寮の部屋をノックする。
いつもの御幸くんならまだ自主練してる頃だし、よっぽどの事があったんだな…
いくら待っても出てきてくれないから、また後で来ようとグラウンドに戻る。
夕食の時も御幸くんは近づくなオーラが出ていて、声がかけられなかった。
ソッとしておいた方がいいのかな。
「おはよう」
「はよ」
朝練の会話はそれで終了。
教室でもムスッとしてた。
昼休み、廊下を歩いていると突然教室の扉が開いて、中に引きずり込まれた。
「舞ちゃん」
「びっくりさせないでよー。悲鳴あげるところだった…」
びっくりしすぎて心臓が痛いよ。
こんな所に引っ張りこんだんだから、何か話があるんだろうけど、なかなか口を開かない御幸くん。
長くなりそうだったから、とりあえず腰をおろした。
「どしたの?」
御幸くんも隣に座って、私の肩に頭を預けてくる。
「野球してる時は、キラキラしててかっこいいのに、なんでプライベートはこんなダメダメなの?」
「舞ちゃん全然かまってくれねぇじゃん。」
ほんとこの人、ダメダメだ…。
「近づくなオーラ出してたのは御幸くんなんだけどな」
「はぁ……。」
「切り替えないとすぐ練習だよ。正捕手!」
これだけ落ちていても、グラウンドに立ってキャッチャーマスクをかぶれば別人みたいになるから、御幸一也って人間は目が離せない。
御幸くんがあんな怒るのは、たぶんクリス先輩の事だ。
沢村くんが何言ったかわからないけど、尊敬してる先輩の事を悪く言われたんじゃないかな。
それ以外考えられなかった。