第9章 紅白戦
「データも何もない、得体のしれない打者に御幸くんならピッチャーに何を投げさせる?」
「俺?まぁとりあえず、ストライクは投げさせねぇよな」
アウトコースのストライクを1年生小湊くんは狙いすましたかのように撃ちにいった。
「ライト線ギリギリ、長打コースだ」
「あいつ、打つ前からスタート切ってやがった」
タイミングはアウトだけと、ランナーにタッチしにいったミットを避けて身体を捻ってホームベースをタッチしにいって、1年生1点を返した。
「すごいね、今の走塁。」
「たまたまじゃなかったらな」
卑屈気味だなぁ…
でも、御幸くん。笑顔になっててわんぱく坊主みたいな顔になってるの気づいてる?
「形はどうあれ闘志のなかった1年にやる気を出させたのは沢村だ。チャンスを与えられて当然だよなぁ。
監督もただの鬼じゃねぇし。」
はは…鬼って思ってたんだ。
でも御幸くんの言ってること、すごく共感できる。
主力の人達がこの試合内容に不服を申し立てていた。
2.3年生たちのお尻を叩く。
「あ、春市打ったんだ。」
私のつけていたスコアブックを覗きにきた亮介先輩。
「そうなんですよ!ライト線ギリギリに!すごいあたりでしたよ」
「ふーん、生意気」
あれ?兄弟仲悪いのかな?
気のせいだよね。どことなく嬉しそうだし。
「あ、ウガ先輩が打席に立つ!これは見ものだね」
「増子先輩はあいつの球質に気づいてる。
見てみ、バットを短く持って、打席の前の方に」
「動く前に撃っちゃうとか、さすが!」
「嬉しそうだな。まぁこれで増子先輩も1軍復帰かもな」
「ウガ先輩の長打力はチームに欠かせないもん」
ウガ先輩、いつも好物なのにプリンくれるし、マネージャーの私達のことも気にかけてくれる、優しい先輩だから大好き。
亮介先輩も、時々ノック打って遊んでくれるし、オフの間に先輩たちとかなり打ち解けられた。
「舞ちゃん、ほんと先輩たち大好きだな。」
「うん!こんなに頼れる先輩たちいないよ。御幸くんもそう思ってるくせに」
「そんなに褒め称えても何も出ねぇぞ」
少し照れたように伊佐敷先輩は吠えてた。