第8章 新入生
御幸くんの盗塁阻止でなんとかピンチを切り抜けることが出来た。
スタンドの人達も言ってたけど、御幸くんは恐ろしい強肩。
完璧に盗んだのに、スライディングすらさせないなんて。
結果は13-9。
なんだ、なんだ。この乱打戦は。
ヒヤヒヤしたり、配球表をつけたり、感情と手元が忙しい。
この後の勝者が次の対戦相手。
私は居残って偵察することになってる。
試合後はやることがたくさん。
道具を吹き上げて、スコアブックの整理。
打率や防除率の計算。
私が学校に帰ったのは、もう夕日がグラウンドを照りつけていた。
丹波さん…走ってるんだ…。
悔しいよね。
マネージャー室で、今日のデータをまとめていると御幸くんがジャージ姿でやってきた。
「おつかれさん」
「御幸くんもお疲れ様。これいるの?」
「そうそう。これこれ。貴子先輩がつけたスコアブックに舞ちゃんがつけてくれた配球表。試合振り替えれるのはマネージャーのおかげだよ。」
よいしょと隣に座って、スコアブックと配球表を見比べてなにやらブツブツと言ってる。
「しっかしまぁ、この配球表、やべぇ…
これが相手チームに渡ったら俺の配球の癖筒抜けじゃん。投手が首振ったのまで書いてあるし、なんなのこれ。
打者の弱点も一目瞭然。こえよ…」
「次の対戦相手のはこっち。まだまとめれてないから見にくいと思うけど…」
「ひぇ、つくづく舞ちゃんが味方で良かった。コースも球種も完璧。ほんとすげぇや」
試合時間が長かったから、今日は本当に疲れた。
だめだ…今日はもう集中力ないや。
昼も食べ損ねて、おなかすいたし。
ぐーーと増子先輩のようにおなかが鳴って御幸くんが笑った。
「これ、食べな。御幸くんのお手製のおにぎりです。食堂のおばちゃんに飯わけてもらった」
「食べていいの?夜食とかじゃないの?」
「どうせ、昼も食ってねぇんだろ?」
お見通し。
おなかがペコペコなのを差し引いても、塩加減とか絶妙だし。
でも…。
「流石にこれは大きすぎる…」
自分で握るおにぎりの3倍くらいあるんじゃなかろうか…
御幸くんの手で握ったおにぎりだから、とてつもなく大きい。