第8章 新入生
「ごちそうさまでした。」
「いえいえ。おにぎりだけでなんかごめんな」
「んーん。おいしかったありがとう。」
絶対的エース不在。
これは選手の耳にも入ってるだろう。
今年の一年生が投手経験者が多いのはそういうことなのかな。
「寮生活はどう?」
この春から私は実家を出て女子寮に入った。
空きが出たから。
毎日毎日遅いから両親もそのほうが安心だと、送り出してくれた。
「一人部屋だし、なんの気兼ねもないし、学校も近いから勧めてくれた高島先生に感謝だね」
「つうか、それで今までより遅くまで残ってたら意味ないからな。
早く帰る!寝る!体力的にしんどくなってくるのも、練習が厳しくなってくるのもこれから。
夏の本戦の時にぶっ倒れられたら、困るから。休めるときにしっかり休んどいて。
つうわけで、これ没収。わざわざまとめなくても充分見えるし、問題なし。」
「えー、まだ19時だよ?」
「えーじゃねぇよ。2試合もスコアつけたり、配球表を書いたりかなり疲れてんじゃん。早く帰れ、強行突破しようか?」
制服の首根っこを掴まれた。
このまま寮まで連れて行かれそうだし、ここは素直に言うこと聞いとこう。
私が寮に入って変わったことは、夕飯を青心寮の食堂で食べるようになったこと。
女子寮の寮母さんがいつまでも片付かないと、野球部の寮母さんに泣きついたらしい。
それでこっちで食べるようになった。
ガッツリ系のおかずに次々になくなっていくご飯。
見てるだけでおなかいっぱいだよ。
いつもの定位置で、ご飯を食べていると、御幸くんが沢村くんに話しかけた。
「知らねぇのか?明日、一二年で試合するんだぞ」
「なにー??それ、俺出れんのか?なぁ!」
御幸くんの胸ぐらを掴んで八つ当たりをしていた。
「おれー、先輩だから…」
「ねぇ、それ私も聞いてない!」
「舞ちゃんが偵察行ってたときに決まったんだよ。
すぐに使える1年いるかいないか見極めるためだと思うぜ」
沢村くんに聞こえないようにコソっと教えてくれた。
一年生は基本体力作りなのに、よっぽど状況が悪いんだ。
2.3年生はポジション譲りたくなくて本気で潰しにかかってくるだろうし。
どんな紅白戦になるのかな。