第68章 開会式
「大丈夫…」
「バカ!さっきの降谷みたいな顔色してんぞ。」
一也の野球帽をポスッと被せられた。
日陰に連れて来てくれて、梅ちゃんが冷たいお水を、俊平はタオルでバサバサ扇いでくれて。
ダメだなぁ…他の学校の選手にまで迷惑かけちゃってる。
「悪いな、話に夢中になってて気づいてやれなかった。」
「こいつ、自分の事となると極端に鈍感になるからな。
変わってねぇのな。ぶっ倒れるまで動き回ってるんだろ?」
「真田、正解。うちの投手陣と一緒。こっちが気づいて止めるまでやってんの。昔からか…」
「グラウンドで何度も動けなくなってさ、こいつの兄貴がおぶって帰るなんてざら。」
反論出来ない…。
ごめんねってみんなに謝った。
「おぶってやろうか?あいつの変わりに。」
「やだ!動けるもん。こんな人たくさんいる中でなんて無理ッ!刺されたくないし。」
「「あーー、それは辞めたほうがいい。」」
俊平、梅ちゃんが同意してくれた。
さっきから一也は手紙やら差し入れやらたくさん声をかけられてたし、反感買いたくない。
お二人からも同意をいただいて、支えてくれていれた一也の胸板を両手を突っ張ってぐいーと押し返した。
「舞は変なとこ頑固だから、諦めたほうがいいぜ、御幸。」
「わーってる。」
じゃぁな、って別れて今度会う時は本当に敵同士。
泣いても笑っても最後の夏。
ゾノくんの言うように1番熱くてわがままな夏になりますように。
学校に帰ってもみんなすぐにグラウンドへ散っていく。
「体調悪かったんだから、くれぐれも無理しないように!」
「もう大丈夫だって。心配症だなぁ。」
みんなが頑張ってるのに、涼んでなんていられないよ。
グローブを持って外野にボール拾いに入ろうとした。
「こら、待て。帽子被れ。」
首根っこを掴まれて、少々乱暴に被せられた。
この日も遅くまで、ボールを打つ音が響いていた。
開会式では天久くんとじゃれてたみたいだけど、沢村くんの纏う空気は固くて重い。
もっと元気ハツラツの彼の方がらしいのに。
エースナンバーを背負うとそうなっちゃうのかな。
マネージャー室でDVDの電源を入れて由良総合の練習試合の映像をチェックする。
これも球場で仲良くなったおじさまのおかげだ。
前任の榊監督が由良総合で復帰すると教えたらそれはもうすごい喜びようだった。