第66章 抽選会場にて
いつから好きだった?そんなこともう覚えてねぇよ。
気づいたら隣にいたし、兄貴の後ろをチョロチョロ走ってくっついてきてた。
よく泣き、よく笑い。
舞といると飽きなかった。
別の高校を選んで、舞から離れようと決めた。
兄貴を亡くしたあいつを、支えてやれる気がしなかった。
俺は俺の事で精一杯だったし、逃げたんだ。舞から。
舞の事を支えていたのは、まだ見ぬ御幸一也だったから。
兄貴の分まで…と意気込んで、青道に合格することだけを考えてた。
受かったよと報告をもらった時、俺の初恋は完全に終わったと確信した。
御幸だって、きっと舞に惚れる。
近くにいたら必ず…。
御幸が万が一ろくでもない奴なら、奪おうと思ったが、1年の夏、あいつらを球場で見かけた時に脆くも崩れさった。
見るからにお互い好き合ってる。
傍から見れば一目瞭然なのに、付き合ってはないって。
高校生の舞は大人っぽくなってて、可愛さに磨きがかかってた。
青道のマネージャーは可愛いって一部では有名な話。
しばらく連絡は経っていた。
諦められなくなるから。
でも、見かけるたびに舞への想いは募っていく。
たまたま練習帰りに偵察に行った帰りの舞を見かけて、もう日も暮れかかってるのに一人で行動してる舞を送って行ったときに溢れ出した想いをぶつけた
正直どんな言葉で伝えたかなんて覚えてねぇ。
お前のことが好きだったって知ってて貰いたかった。
これで御幸が焦ってうまくいけば、万々歳。
俺の願いはいつだって舞が笑顔でいられることだから。
怪我を隠して試合に出て、それで勝っちまうんだから、ほんと敵わない。
試合後にボロボロ泣いてる舞をグラウンドから見つけて、あー、こいつら纏まったんだって思った。
抽選会場で、泣きそうな顔して俺の心配をする舞に正直グラっと来た。
まだやれる。こんな所で終わって溜まるか。もう一度あの場所へ。
置いてきたものがあるんだ。
監督とこのチームでもう一度甲子園へ行く。
「次は開会式かな?」
「だな、スタンドは暑くなるから熱中症に気をつけろよ。」
「俊平も…」
「またな。」
舞の言葉を遮って会場をあとにした。