第63章 白羽の矢
「ファースト守るの緊張してる?」
「そう見える?」
顔には出してないけど、なんとなく落ち着きがない感じがする。
結局どこ守っても卒無くこなすんだろうけどね。
「ベンチからの景色はどう?」
「すっごいワクワクしてる!」
「良かったな」
成宮鳴がイチャイチャすんなって吠えた。
それもそうか…気をつけなきゃと気を引き締める。
データがない中でどう組み立てて行くんだろう。
スイングや立ち振る舞いから?
「舞、ちょっとおいで。」
フェンスにもたれ掛かってた一也が私を呼んだ。
情報担当の私なら同選手に伝えるかって難題を突きつけられた。
「アメリカのストライクゾーンは外に広いってよく聞くから。だから、外はボールゾーンに投げるくらいでも振ってくれると思う。攻めるのはインコース。でしょ?」
「そう。日本の球場が舞台で審判も日本人。」
「外のボールゾーンに誘い出して。」
「インコースで仕留める。わざわざこっちの土俵に上がって戦ってくれてるんだ。」
「ホームアドバンテージを利用しない手はないよね。」
交互に話す私達に驚きの視線を向けている人もいた。
「いい性格してるよな。ほんと。」
「お前に言われたくねぇ。」
「舞も、一也の野球論しっかり理解して、悔しいけど認めざるを得ない………って言うと思ったか!」
またベーーって舌出してる…。成宮鳴に認められなくてもいいですよーーだ。
「鳴、サラッと呼び捨てにしてんなよ」
つーーんとそっぽを向いた成宮鳴。
楊くんも悪い男だって言ってて一也はえ…。と返していた。
整列して試合開始。
楊くんがマウンドで笑みを浮かべてる。
バットをへし折った。まともにバッティングをさせてない。
本当に凄いピッチャーだ。
ベンチでは情報交換が行われてて、打てない球じゃないとみんな言ってる。
味方だったら凄い頼もしいな。
「三者凡退。あっという間!これじゃピッチャー休めないよ」
成宮節が炸裂して、沈黙が生まれる。
「笑ってんじゃないよ」
クスクス笑ってると成宮くんに帽子の上からグリグリされた。
「痛いってば…。準備しなくていいの?ほら、ブルペン行ってよ。」
スコアに集中しないと…
私の手元をのぞき込んで来た成宮くんは、ジーッとスコアブックを眺めていた。