第62章 激戦

何事もなく無事に練習が終わる。

「矢代、T投げてくんねぇか？」

「うん、投げるよ！いくらでも！」

倉持くんに自主練に誘ってくれた。
最近はずっと左打ちをしてる。

「嫌らしい所ばっか投げてくんなよ。気持ちよく打たせろって」

「あ、ごめん…つい…」

「御幸がバッティング良くなったのわかった気がするよ」

それは一也の努力の賜物だよ。
誰もいない時間、誰もいない所でバットを振り続けてた。バッティンググローブ何枚穴が開いたかわかんない。
持ち前の配球を読むバッティング、ピッチャーが嫌うバッターだったんだもん。

芯に当たってドヤ顔を見せた倉持くん、じゃ次はこっち。

「あ、こら！コース変えんな！」

「へへへ、でも軸はぶれてない。流石だね。でもちょっとヘッドが下がってた。」

「ったく…どんな目してんだよ。いい練習にはなるけどよ…」

視力は2.0ですと申告したら、そうじゃねぇよと小突かれた。
向こうもそろそろ練習終わる頃かなぁ。

「舞先輩、俺も投げてもらっていいですか？」
倉持くんが終わった所で東条くんに声をかけられた。
「はーい。」

「厳しめでお願いします。」
「りょーかい。」

「東条！姉さんに投げてもらってんのか？次変われ！」
「練習になるって聞いてたから、ずっと投げてもらいたかったんだよ。早い者勝ちだよ。」
「金丸くんにも付き合うから、ちょっと待ってて。
東条くんは今少し身体開いてるから、懐に呼び込むことだけ考えて。」

金属より芯を捉えにくい木製バット。
小湊くんの影響も強いかもしれないけど、練習の時に木製を使う人が増えた。
木製の芯に当たった爽快な音がした。
「いいね、今の。ほれ、もう一つ。」
芯に当たった時の感覚を身体に叩き込ませる。
御幸くんとずっと練習してきたし、彼のヘッドスピード、バットコントロールを近くで見ているのは伊達じゃない。

「金丸、東条
その辺にしとけよ。矢代疲れちまうだろ。」

「全然平気！次、金丸くん打つ？」

なんかしてたほうがいい。
みんなの練習に混ぜてもらってた方が、違和感を感じなくてすむから。

ノックの時もバッティング練習の時も、一也の声が聞こえてこないのがすごく違和感があった。
改めてチームの核になる人なんだなぁと実感する。
何より私の支えになってた人。