第60章 嫉妬
「あー、真田?!
舞ちゃん、堂々と浮気かな?」
今から走りに行くのか、ランニングシューズを履いた御幸くんが言葉とは裏腹ににこやかに近づいてくる。
それが逆に怖かった…。
「悪い!御幸に断ろうと思ったんだけど、自主練の邪魔したくないって。」
ツンツンと私を指差す。
「ふーん。まぁ、いいけど。
ここにいるって事は、関東大会、負けたんだろ?」
私の頭の上で手を組んでそこに顎を置きながら俊平と話してる。
非常に重たい。
身長縮むよ…。
「見せつけなくても、舞を口説きに来たわけじゃねぇよ。
用事はすんだから、もう帰るわ。」
そいつ頼むなと俊平は背中を向けた。
「へいへい。」
立ち去る俊平の歩き方が…少し違和感。
「俊平!無理しないでね。」
少し振り返っておぅと笑顔で答えた。
まさか、また足、悪くなったのかな…。
「あーあー、やだやだ。俺の彼女ちゃんは、全然俺のこと見てくんねぇ。本戦で当たるかもしれない、他校のエースの心配ばっかりで。
どうしたもんかねぇ…」
御幸節が炸裂する。
この前、妬くと言われたばかりなのに…。
「御幸くんのことちゃんと見てるもん。私が好きなのは、好きで好きでどうしょうもないのは御幸くんだけ。」
人一倍責任感が強くて、どんな時も弱気なリードなんてしなくて、後輩たちを背中で引っ張っていってる。
少し抜けてる所があるのも、友達いないってイジられる所も、こうやって全力で妬いてるんだよって伝えてくれるのも、全部好き。
サッカーができない所も、むしろ可愛くて好き。
謎のアイマスクとマスクを愛用してるのも。
あげたらキリがない。
御幸くんの事を考えるだけで、胸がこんなにも熱い。
「言葉でなら、なんとでもいえる。
証明してよ。」
証明……。
どうやってしたらいいんだろう。
こっち来てと彼の手を引っ張る。
物陰に御幸くんを連れ込んだ。
ツーンとしてしまってる御幸くんに精一杯背伸びしてキスをしようと思ったけど、届かない…。
屈んで欲しいとお願いしたら、やだよと言われてしまった。
もうヤケだ。
首に腕を回してこっちに引っ張る。
半ば強引にキスをしたけど、唇は固く閉じられたまま。
いつもみたいに深く、熱い舌を絡め合うキスがしたかったのに…。