第1章 一年生
自主練が終わってみんな寮で夕食を取る為に一旦上がっていった。
お疲れ様でしたと声をかけると、これからよろしくなとか気をつけて帰れよとか、声をかけてくれた。
ボールが一つネットの隙間に転がっていて、倉庫に戻そうとした。
少し乱雑に置かれたボール籠やバット。
またすぐ使うかもしれないけど、気になって片付けを始めてしまった
道具は大切に。一つ一つ丁寧にボール磨きをして、バットも磨き上げた
スパイクから落ちた土を履き出して、倉庫中を綺麗にしていく。
これは私の悪い癖だと思う。
頼まれてもいないことだけど、やり始めると止まらない。
誰もいない部室も隅から隅まで、掃除した。
「あれ?まだ残ってたの?もう遅いよ?大丈夫?」
「あ、御幸くん…お疲れ様
これからボール使うの?」
「ちょい素振りと片付けをね。
つうか、女の子がこんな遅くに一人で帰るつもり?」
「平気だよ、自転車だし慣れてる」
「さっき、倉庫覗いたけど、すっげー綺麗になってるの驚いた。
部室も…サンキュー」
「勝手にしちゃった…大丈夫かな…
場所は動かしてないんだけど…」
「やろうと思ってたことやっててくれて助かった
マネージャー!これからよろしくな!
なぁ、クラス何組?」
「御幸くんと一緒だよ、なんなら隣の席」
「うぉ!まじか!入学式眠くて眠くて、クラス入ってからもずっとボーッとしてたから…ハハハ…」
罰が悪そうに笑いながら、御幸くんはバットを振り始めた。
空を切るバットの音が鋭く聴こえてくる。
この人、やっぱりできる人だなぁ…。
このバットに兄は何本もヒットを浴びてたなぁとしんみりしながら思う。
「野球、好きか?」
「うん、大好き!
リトルでやってたよ、実は。
練習見ながらボール投げたくてウズウズしてたんだ」
「へぇー、キャッチボールするか?」
兄が憧れた御幸一也とキャッチボール?!
そんな恐れ多い…
断ったけど、いいからいいからとグローブを渡された
キャッチボールでこんなにワクワクしたのは、初めて塁間を綺麗な軌道で投げられた時以来だ
キャッチャーミットを綺麗に鳴らせてくれるあたりさすがだなぁと思った。
今の私の球威からは想像できないくらいの音がしてた
「なぁ…兄貴とか、いる?」
「うん。でも、正確には…いた、かな…」