第6章 一年生 ⑥
新学期。
公式戦はないし、走り込みのメニュー中心だから、なんとなくだらけていた。
キャプテンの哲さんが黙々とバットを振っているから、感化されてみんなキャプテンに続いた。
「さすがだなぁ…」
「哲に見惚れてるの?マネージャー」
「わわっ、小湊先輩!見惚れてたわけではなく、尊敬の念をですね」
「顔赤くない?」
「だから、違いますから」
そう言い合いをしていると、突然、御幸くんがおでこに手を当ててきた。
「熱ある…」
「え?」
「どれどれ?」
小湊先輩も首のところに手を当てて、御幸くんが言ったことを確かめた。
「これは、あるね。
よく気づいたね、さすが夫婦。」
「夫婦じゃないですってば!」
御幸くんも否定してよ。
「帰れ、今すぐ!」
そんな怖い顔しなくても、帰らせてもらうよ。
みんなに移しちゃったら、大変だし。
「じゃぁね、マネージャー。お大事に。」
「荷物取ってくるから、そこにいて」
風邪引いたなんて自覚なかったのになぁ…。
熱があるって指摘されてから、突然しんどくなった。
立ってられなくなって、その場に座りこんで壁に持たれかかる。
倉持くんかな?
白洲くんかな?
二人の声が遠くに聞こえた。
見慣れない天井。
というか、二段ベッドだよね、これ。
ここ、寮??
「目、覚めたか?」
「びっくりさせんなよな。荷物取りに行って戻ってきたら、倉持と白洲が大慌てでさ。
とりあえず、寮の空き部屋に連れてきたってわけ。」
ヤバイな…御幸くんの話が全然入ってこない。
「これ、測って」
体温計を渡された。
ピピッと電子音がして、見てみると、近年稀に見る高熱だった。
「こんなにありますか…」
「見して」
隠そうとしたけど、あっという間に取られて、体温計を見て御幸くんが固まった。
「いつから?」
「朝起きたときから、こんなもんだったと思われます。」
「ったく、休めよな」
「面目ない…」
「まだ顔色悪いから、寝とけ。」
「練習終わったらまた様子見にくるからな、大人しくしとくんだぞ」
シーンと静まり返った寮の部屋。
遠くで声出しするみんなの声が子守唄みたいに聞こえた。