第6章 一年生 ⑥
寒い中、選手は一生懸命練習してる。
なのに、私は…
事故みたいなキスでぐらついて、集中できてない。
御幸くんだって、話しかけてこないし。
目があったのに、さっき思いっきり反らしちゃった。
「御幸くんとなんかあった?」
「貴子先輩…」
「いつも一緒で仲いいのに、今日はどうしたのかな?って思ってさ」
どうする?
こんなこと…誰にも相談できないよ。
「すみません、貴子先輩。
俺がちょっかいかけて舞ちゃん怒らせちゃった…仲直りするから、借りてっていいですか?」
「どーぞどーぞ。」
「行こ」
御幸くんに手を引かれて、誰も来ない場所まで連れてこられた。
「この前は、本当にごめん。」
「なんでよ…なんであんなことしたの?」
ガシガシと頭を掻きながら、頬を染めて御幸くんは口を開いた。
「真っ赤になって固まってる舞ちゃんが、かわいいって思ったから…。」
「そう思ったらキスするの?誰にでも?」
「そうじゃねぇけどよ…なんつうかな…うまく言えねぇ…
誰にでもするわけじゃないって事はわかって」
「御幸くんとどう接していいかわかんないんだけど…」
「今までみたいにできねぇ?」
なかったことにするの?
全部忘れたら、今までみたいに仲間として接することができる?
「忘れるから、御幸くんも忘れて。」
「それが条件?」
「うん。」
「わかった…。ほんとごめんなさい。」
「なんのことかな?忘れた!!
自主練あるんでしょ?この冬の練習が夏の勝敗を左右するんだ!」
監督が言っていた言葉を真似して言った。
「行ってくる!」
駆けだしていった背中を見つめて、これでいいんだよね?と兄貴に問うた。
「仲直りできた?」
「はい。ごめんなさい。練習中にボーッとして。」
「いいよ、いいよ。部員とマネージャーって言ってもお互い高校生だし、喧嘩することも、揉めることもあるよ」
いい子いい子と撫でてくれた貴子先輩に抱きついた。
「かわいいなぁもう!」
「私達も混ざっちゃおう」
唯ちゃん、幸ちゃんも混ざって揉みくちゃにされた。
マネージャーのみんながいてくれて良かったと心から思った。