第55章 遠征での出会い
兄貴に勝ってやるって意気込んでいたこともあるけど、指導者の意向でグランウンドにも立てなくなった。
「入部してきた頃のデタラメなフォームもきれいになったし、強気なインコース攻めもできる。
沢村くんの前向きな姿勢に励まされた人は多いんじゃないかな。
イップスを克服して大きくなった沢村くんだし、春大のときのみたいな投球、もう一度見たいよ。」
「姉さん!俺やります!やってやります。」
「ははっ、いいね。その粋だ!
純粋にひたむきにやってきた結果がで始めてるってそう思うよ。
ごめんね、偉そうに言っちゃって。」
首が取れちゃうんじゃないかってくらいブンブンと首を振って沢村くんはまっすぐ前を見た。
走ってきますと元気に駆け出して行く。
もう遅いから…と止める間もなかった。
「ったく…沢村のやろう…」
「うぇ…御幸くんいつからいたの?」
「まぁまぁ最初から…」
全部聞かれてた…恥ずかしい…。
「舞ちゃんがそうやって選手の声を聞いてきてくれてから、選手も発散できてんだよな。
いつもサンキュー。」
選手同士じゃ言いにくいこともあるのは、否めない。
でも誰かに聞いてほしいって、そういう時、選手達に寄り添ってられたらいいなって。
それだけ。
的確なこと言えてるかわからないけど、話し終わったらみんなスッキリしてるから、役に立ってるって思い込むことにしてる。
幸ちゃんや唯ちゃんも相談受けてるし。
幸ちゃんはとにかく明るい元気印。
唯ちゃんは穏やかで優しい。
「マネージャー達がいなかったらきっともっと揉めてる。」
「話し合いで解決できるよ。
よく見てる倉持くんと仲間思いのゾノくんが副キャプテンだし、それに何より実力と発言力があるキャプテンは御幸くんだもん。」
「ちょ…もうやめて…」
褒めたら照れるのは慣れないらしい。
本人曰く、性格悪いとかは言われ慣れてるけど、褒められ慣れてないらしい。
おしゃべりしてたら、ナベちゃんとの約束の時間が近づいてきて、御幸くんは温泉に入れないままだった。