第55章 遠征での出会い
沢村くんの好投もあって、ゴールデンウィークの試合は4連勝。
試合が終わって荷物を出していると御幸くんを睨みつける美馬くん。
「なに?さっきから。」
「ラインやってる?」
「はぁ?」
プッと思わず吹き出してしまった。
ギロリと睨まれてごめんなさいする。
なんか二人の温度差がツボってしまった。
クスクス笑っていると御幸くんが口を開く。
「わりぃ、俺スマホ持ってないから。」
「なに?ほんとうか?」
視線をこちらに向けられてコクンと頷いた。
「ガラケーで十分だし。」
「なるほど。」
美馬くんは御幸くんを分析し始めた。
ストイックな人間ていうのはズバリそうだと思う。
いくつの球団から挨拶に来たかとか、聞くだけ聞いて美馬くんは後は総無視。
「で?こいつはお前の彼女か?」
「人の彼女捕まえてこいつはねぇだろ…」
「ふーん、御幸はこういう女がタイプなんだな。」
まじまじと品定めされてるみたいで、すっごい恥ずかしいんだけど…。
「悪くない。むしろいい。バックネット裏でつけていたのはなんだ?」
なんだか視線が怖くなって…睨むように見つめてくるから逃げ出したくなる。
「蛇に睨まれたカエルみたいだな。
この子は配球表つけてたんだ。バッテリーの癖もばっちり掴んでたぞ。」
なるほど…と美馬くんは呟く。
「馬鹿正直な後輩に優秀なマネージャー、お前ら青道の強さはこれか…」
あまりにも怖くて御幸くんの背中に隠れながらふたりの話を聞いていた。
「本当の勝負は夏が終わってからだ」
美馬くんはそう言って階段を降りていく。
「御幸くん、もったでしょ。それとも私また聞かされてないだけ?」
「うわ…東京選抜のこと根に持ってる?」
そうだよ、あれはちょっと悲しかった。
なんでも話してくれてるって自惚れてたから…
「ちょっともった。選抜終わってから4球団増えたらしいのは言っただろ?」
プロとかの話が出るとやっぱり御幸くんは凄い選手なんだなぁと実感する。
「俺は俺。なにも変わってねぇよ、そんな顔すんな。」
鼻をムギュっと摘まれてじゃれてると早くしろよーと倉持くんが叫んでいた。
ゴールデンウィークの成績は6戦全勝だった。