第5章 一年生 ⑤
「はぐれねぇように」
差し出された手を素直に握っていいのかな…。
「ほら、早く!」
ちょっと乱暴に手を取ってギュッと握られた。
「冷てぇ手」
「御幸くんの手はあったかいね」
「普段から動いてるし新陳代謝がいいんじゃねぇの?」
そうかも。
冬練の時はみんな、身体から湯気出てたし。
明治神宮に向かう参道で甘酒を配っていた。
「飲む?」
「うん」
紙コップに並々に入った甘酒。
フゥフゥと覚ましてから一口飲んだ。
「ふぅー温まるね」
「そうだな。酔っ払わねぇようにな」
「甘酒でしょ?酔わないよ」
寒かったけど、甘酒のおかげかポカポカ温かくなってきた。
お参りをきちんとすまして、絵馬も描いた。
青道野球部が、甲子園に出場できますように。
絵馬にも手を合わせて叶えてくれるようにお願いする。
「さーて、腹減った。なんか食いに行こうぜ」
普段は禁止されてる、ファストフード。
炭酸ももちろんだめ。
今日くらいはOKって事で、ハンバーガーとポテトを頼んだ。
「コーヒーも貧血になるから、飲まないほうがいいよ?」
「じゃ、お茶?」
「オレンジジュースは?」
「甘いのじゃないのがいい」
御幸くん甘いのあんまり得意じゃなかったっけ。
誕生日ケーキもクリスマスケーキも一口でいいんだって、残りは全部くれた。
こんなふうにファストフード店のテーブルで御幸くんとふたりでポテトを突っついてるのって、なんか不思議。
「お父さん、元気だった?」
「元気、元気!張り切って出前頼んでくれてた。」
「良かったねー、私なんて一人で蕎麦茹でてたよ」
気楽で良かったけど、浮かれた両親から次々と携帯に写真が届いてそれが、ちょっと鬱陶しかった。
それから、スポーツ店に行ったり、ブラブラ初売りを見て回ったり。
充実したオフだった。
「舞ちゃん、今日も一人で晩飯?」
「そうだけど?」
「俺、作ってあげようか?」
「お父さんは?」
「近所の人と新年会だってさ、飯いらねぇって連絡来た。」
御幸くんが載った野球王国って雑誌にも得意料理はチャーハンて書いてあった。
「チャーハンがいい!」