第5章 一年生 ⑤
お母さんが亡くなってたのを、年末初めて聞いた。
小さい頃だったから、写真でしか顔は知らないって。
野球をしながら、家のことをしていたみたい。
だから…。
夏合宿の時も冬合宿の時も、味付けにアドバイスをくれてたんだ。
幸ちゃんは「文句言うなら食うな」って怒ってたけど。
料理が趣味なんて意外だった。
「ごめんね、辛いこと思い出させちゃった。」
「いや、物心つく前だったし、いないのが当たり前で。
親父は今一人だからそっちのほうが寂しいかもしれないけど、忙しくしてるから、仕事に必死で俺のことは忘れてんじゃね?」
「そんなことないって。息子だもん。寂しいって思ってるよ!!」
アハハッと大きな声で笑った。
「舞ちゃんがそんな必死にならなくても。」
あ、確かにそうだ…。
御幸くんちは御幸くんち、だよね。
「連絡するから、初詣行こうぜ。来年の夏こそ、甲子園!
願掛けとかなきゃ。」
「うん。」
1月1日。
あけましておめでとうのメールと一緒に、10時に迎えに行くからと連絡があった。
10時にマンションの下に下りると、5分前なのにもう御幸くんはいた。
「早いね。」
「運動部は10分前には集合しとかなきゃ、だろ?」
制服かユニホーム、ジャージ姿しか見てこなかった。
私服ってなんか新鮮。
「スカート、足寒くねぇ?しかも短い。」
「おじさんみたいなこと言わないでよ。セクハラー!!」
どうせなら勝負運の神社に行こうと、明治神宮を目指す。
電車は初詣客でいっぱいだった。
満員電車なんて乗り慣れないから、人酔いしそう。
「大丈夫か?」
「平気」
人混みに潰されないように、御幸くんが身体でガードしてくれるんだけど、電車が揺れるたびに距離が近くなるのに、ドキドキする。
明治神宮の最寄り駅に到着して、人混みに流されるようにホームに降りた。
手を繋いでてくれたおかげで、逸れることはなかった。
「どっから湧いてくるんだよ、この人!」
「なに?聞こえなーい。」
人混みの騒音とかで全く聞こえない。
「ちょっと、あっち…」
改札を出て、少々休憩を。
「人多すぎ!」
「しょうがないよね、元旦だし。」
東京育ちでもこの人混みは正直きついなぁ…。