第34章 決戦前夜
「随分大人しいじゃん」
「暴れたら脇腹痛いかな…って…」
そう理由をつけてみたけど、嫌じゃないって思ってるのはどうして?
前から嫌ではなかったけど、今はもっと御幸くんの体温を感じていたいって思う。
小さく名前を呼ばれて御幸くんの顔を見れば、一気に顔に熱が集中したみたいに熱かった。
「顔、真っ赤…」
「しょうがないでしょ…」
おでことおでこがくっついて、御幸くんの息遣いもわかるくらい近い…
「かわいい…」
「………っ」
こんな至近距離でそんなこと言われたら、もう心臓が爆発しそう。
首とか頬とかチュッってたくさんキスされた。
「やっ…御幸くん…だめ…」
「突き飛ばしていいよ」
できるわけないでしょ…怪我してるのに…
ずるい人だ…
カサついた親指で、私の唇をなぞってそのまま唇を重ねてきた。
御幸くんとキスしてる。
一回目の時はびっくりして、なんで?って感情しかなかったけど、今はドキドキする。
このドキドキはなんなのか、私の経験値ではわからない。
御幸くんのキスは甘くて優しい。
触れるたびに御幸くんの気持ちが伝わってきて、どうしたらいいかわかんなくて、声を絞り出して待ってと伝えた。
「待たない…」
最後に長い長い口づけを交して、ギュウっと抱きしめられた。
「本当は明日勝ってちゃんと言おうと思ってたんだけど…
抑えきれねぇって俺も大概だよな…」
それは…そういうことでいいの?
パニックでワタワタしてるとプッと吹き出して笑われた。
「返事は明日聞かせて。俺にするか、真田にするか…」
気づいてたの?俊平に告白されたこと…。
「甲子園行きの切符も舞ちゃんのことも、諦めるつもりはさらさらねえけどな」
そろそろ寮に戻るかと立ち上がろうとした御幸くんは、痛みからかふらついた。
こんなので試合できるの?
「心配すんなって、大丈夫!」
そうやって誤魔化して笑うんだ。
そんなことされたら、送り出すしかないじゃない…。
「無理だけはしないで…」
「今しなきゃ意味ねぇの…」
もしも、御幸くんが試合に出れなかったら、チームへのダメージは計り知れない。
キャプテン、4番、キャッチャー。強豪校のプレッシャー、OBたちからの期待。
彼の抱えてるもの一つでもいい、一緒に持てるものないかな…。