第34章 決戦前夜
「全くもう…」
「まぁまぁ、そう怒りなさんなって。アイス買ってきたから。先に一緒に食べよ。好きだろ?これ。」
ちょっとお高いカップのアイス。
お風呂上がりだから、余計に美味しい。
「ひとくちちょうだい」
アーンと大きく口を開けて待っている御幸くん。
「舞ちゃんもこっちいる?」
おかえしと、口を開けろとアーンと言ってきた。
「んー、やっぱりバニラも捨てがたかった!」
「優勝の前祝いみたいだな。」
「あと一つなんだね。」
掴みかけていた勝利がこぼれ落ちていった夏。
リベンジするには最高の相手。
「明日、勝って病院行こう。
オフの間にしっかり治して甲子園行こう。」
「泣くのはまだ早ぇよ」
「泣いてない…泣かない。」
頬に御幸くんの手のひらが添えられて親指で、こぼれ落ちそうな涙を拭ってくれた。
迷いのない真っ直ぐな瞳。勝つことしか考えてないそんな瞳。
「心配かけて悪い…」
「心配しかできない。」
服を脱いで貰って、テーピングを張り替える。
「背中…やっぱり痣になってる…」
デッドボールが当たった場所にそっと手で触れた。
「手当て…って言葉、本当なんだな。舞ちゃんがそう手を当ててくれたら、痛みが楽になった…」
「ハンドパワー??」
「そうかもな…舞ちゃんの手は、すげーよ。
俺にいつも力をくれる。」
改まってそう言われると…どうリアクション取ればいいの?
「じゃ、こっちも触っとく。」
1番痛みがある所に触れてみると、熱を持っていた。
もっと冷やさないといけないかも…
「さむっ…」
「そうだよね、何か羽織れるもの…」
なにか探そうと立ち上がろうとしたら、御幸くんに腕をグイッと引っ張られた。
「舞ちゃん抱きしめてるほうが暖かい」
「人で暖取らないでよ…」
抱きしめられるのは、初めてではないはずなのに、ドキドキいってる心臓の音が御幸くんに聞かれそうで…
優しい手はゆっくり私の髪を撫でていて、時々指の間に髪を通して遊んでる。
押し退けたら、脇腹痛いよね…。
もしや確信犯か?とモヤモヤしてきた。