第33章 成孔戦
春市くんが打ち取られて、バッターは御幸くん。
ボールが来てもピクリとも動かない。
打つ気が伝わってこない。
やっぱりどこか痛めてる?
構えたバットを握り直した。
あ…打つ…。
振り抜いたバットから放たれた打球は、球場を静寂に包む。
誰かの入ったーーって声がきっかけでまた歓声が上がった。
ダイヤモンドを翔ける御幸くんはとてもかっこよかった。
勝利の余韻に浸っているマネージャーの2人に、下の片付け手伝ってくるねと声をかけベンチ裏へ急ぐ。
「決勝進出おめでとう。」
「俊平…ごめんね。ちょっと急いでる。
俊平も頑張って!」
片付けをしている御幸くんは平然とした顔をしてて、なんならみんなに讃えられて笑顔を浮かべている。
あ、そうか…隠したいんだ…。
今ここでどこか痛いの?って聞いても絶対答えてくれない。
みんながいない所で聞くしかない。
降谷くんに病院行けって言ったのに、自分はあっけらかんとして「なんで?」って言っちゃう人だもん。
今日に限ってテーピング持ってない自分を呪う。
工藤くんに借りるわけにはいかないし…
借りたら誰に使うか絶対に聞かれる。
近くのスポーツ店に走った。
戻ってくると御幸くんが立ち上がってどこかに行こうとしてる。
「舞ちゃん、どこいってたんだ?」
「ちょっと来て。」
御幸くんの手首を掴んで球場から出た。
「おいおいどこ行くんだよ。試合見ときたいんだけど…」
「ナベちゃんが録画してくれてるから、お願い。
黙ってついてきて。」
青道のバスの中に入った。
「御幸くん、脱いで。」
「舞ちゃん大胆!エッチ」
「茶化さないで。みんなに隠したいんでしょ?戻らないと怪しく思われるよ。早く脱いで。」
「やっぱりバレてた。スタンドにいる舞ちゃんの顔を見た時、まずいなぁって思ったよ。」
ひとつひとつの動作を確認していくと、撚る時と腕を上に挙げた時に痛みがあるみたい。
「応急処置だからね。」
「うん…」
鍛え上げられた身体に丁寧にテーピングを貼っていく。
気休めにしかならないだろうけど湿布と晒を巻いて圧迫した。
「お風呂入る前に部屋で外してから行ってね。
あとあまり温まり過ぎないように。お風呂から出たらアイシングして。
それから連絡して。またテーピング貼るから」
「俺がそっちまで行くって。」