第33章 成孔戦
「怪我人は黙って。」
はいとシュンとしながら御幸くんは答えた。
スタンドに戻って薬師の試合を観戦する。
俊平が気迫のピッチングを見せていた。
薬師の打線でも市大の投手を打ち崩せないのか…。
御幸くんの事に必死で、試合前の俊平にそっけない態度取っちゃったな。
「真田はマウンドでは別人になるよな」
「そうだね。本人は意識してないと思うけど。」
薬師の攻撃はあと一本が出ないのが続いた。
轟くんの三振にみんなが動揺した。
「すげぇなあのピッチャー…」
「空振り…あのスライダーは打てないよね。」
次のバッターは俊平。
スタンドからもベンチからも応援されて期待されてる。
冷静に自分の力量をしっかりわかってる人だしいい意味で開き直れる人だから、スライダーは捨ててストレート1本狙いだろうな。
センターへ弾き返された打球。
たった1球ですべてが入れ替える野球の怖さ。
薬師の強さに息を飲んだ。
俊平のヒットが決勝点になって、3-2で薬師が勝った。
球場の外で俊平と鉢合わせる。
「おめでとう。タイムリー2ベースさすがだね。」
「ストレートが来て助かったよ。雷市が打てねぇのに俺が打てるわけねぇよ。」
「ハハッ思ったとおりだ。」
「舞には見破られてそうって思ったけどやっぱりな」
俊平が何か言いかけた。
「舞ちゃん、行くよ。」
その時、御幸くんが私を呼んで、俊平にバイバイと手を振った。
「ごめん、お待たせ。」
「んーん。話してる所だったのに、悪かったな」
かなり痛いのかな…顔が強張ってる。
動くたびに息をする度に痛みが走るだろう。
御幸くんは本当に強い人。
降谷くんの怪我の状態も心配だけど…御幸くんも病院行ったほうが良かったんじゃないかなと今更迷いが出てきた。
寮母さんにご飯を多く炊いてほしいと頼みに行って、御幸くんを探した。
倉持くんの笑い声が聞こえた方に足を向ける。
「後輩に嫌味言わなきゃ話せねぇのか!」
と、沢村くん。
それを笑った御幸くんは一瞬右脇腹を手で抑えた。
「お前笑わせすぎんな、腹筋つりそう」
そうやって誤魔化したみたいだけど…今ので倉持くん気づいたかもしんない。
「ねぇー、なんの話?」
倉持くんにそうやって話しかけた。
御幸くんから視線を外してもらうために。