第32章 日常
夏場みたいに暑くないし、保冷剤も入れてるけど、嫌ならしかたないや。
直視できなかったけど、チラリと顔を見ると、口を開けてポカンとしてる。
顔はほんのり赤くなってて、どういう感情でいるのかわからない。
「えーと…」
「あ、いや…びっくりして。まさか本当に作ってくれるなんて思ってなかったからさ…嬉しくて…俺が食べていいの?」
「よかったらどうぞ。お口に合うかわかりませんが…」
やりぃ!とすごく喜んでくれた。
「弁当開ける楽しみっていいよな。自分で弁当作ってきたから、こんな楽しみな瞬間初めてかも。」
お母さん…いないんだっけ。小さい頃から自分で作ってきたんだ。
えらいなぁ。
パカッと開けたお弁当。見た目は問題ないはず…でも、どんな反応なのか…気になる。
「うぉーこりゃすげぇ。どれもうまそう。
いただきます!」
「うまいっ!生姜焼き好きなんだよ。白飯じゃなくて混ぜご飯て所が愛を感じる。」
「良かった…御幸くん自分で料理するから、口に合わなかったらどうしようかと…」
「冗談抜きでうまい。マジで。
舞ちゃんの弁当が食べられるなんて思ってなかった。」
ここまで喜んでくれるなんて、こっちも嬉しい。
あっという間にペロリと平らげてくれた。
「あ~美味かった。ごちそうさま。
もしかして、今日居眠りしてたのはこれ?」
「どうしても食べる量違うからね。」
「ありがと。」
食べ終わったお弁当箱を受け取ろうとすると、ちゃんと洗って返すと言われた。
食後のカフェオレもご馳走してくれて、毎日おくってもらってるお礼のつもりだったのに、なんだか申し訳ない。
次の授業は、図書室で読書。
なんの本を読もうかと物色する。
著名人たちの自伝とかエッセイとかそんなコーナーに来てみたら、プロ野球の監督の本とか、引退した投手とか捕手の本とかいろいろあった。
へー、こんなのあるんだと手を伸ばすも、届かない。
諦めたところに腕がスッと伸びてきて、びっくりして振り返る。
「みっ、…」
「こらこら、ココは図書室だろ?大声出しちゃだーめ。」
大声を出しそうになった口を御幸くんの左手で塞がれた。
さっきのセリフを耳元で囁くように言われたから余計にびっくりする。
「わかった?」
コクコクと頷く。
解放されて酸素を思いっきり吸い込んだ。