第32章 日常

人のために何かを作るってすごく緊張する。

私の普段のお弁当なんていつも一緒だし。
卵焼きにウインナーとか簡単なおかずを詰めてるだけ。

人様に作ってあげるような代物ではない。

「2人は彼氏にお弁当作ったりする？」
「するよ。ね？」
「寮母さんのご飯も美味しいけどたまには違った誰かが作ったのが食べたいんだって。」
「そりゃ彼女が作ったの食べれたら嬉しいよね。」

どんなおかずを入れるか聞いてみた。
ガッツリ系だそうだ。
そりゃそうだ、野球部だもんね。

うーん。寮のキッチンじゃなかなか作れないよなぁ。
生姜焼きとか、炒めものならできそうだけど。

「なになに？誰かに作ってとでも言われた？」
「もしかして、御幸とか？」

あっさりと言い当てられて、飲んでいたジュースを危うく吹き出しそうになった。

「当たりだ！」
「やるねぇ御幸も。積極的！」

「男の子に作ったことないからわかんなくて…」
「なんでもいいんだよ。作ることに意義がある」
「そうそ。絶対何でも喜んでくれるよ」

寮でできそうなもので、ガッツリ系…。
うーん。難しいなぁ。

部の買い出しに出たついでに、自分の買い物もさせてもらってる。
雑貨屋さんで見かけた、キャラクターがヘルメットをかぶってバットをもってる。
可愛くて思わず手に取った。
大きめサイズだし、これなら御幸くんも満足してくれる量が入るかも…

悩み抜いて購入することにした。
食材の買い出しも終わらせて、マネージャーの仕事に戻る。


寮に戻って、お弁当の下ごしらえ。
混ぜご飯にするために、鮭を焼いておく。
きんぴらごぼうも今から作っておこう。
ブロッコリーとにんじんも茹でる。

今日できるのはここまでかな。
あとはおかずを作って盛り付け。

いつもより早く起きてお弁当を作る。
自習なのをいいことに居眠りしちゃった。

「御幸くん、今日お昼どうするの？」
「今日も一緒に食べようかと購買に行くけど？」
「こ、これ…作ってきた。よかったら…食べて。」

差し出したお弁当。
なかなか顔は直視できない。
御幸くんも黙ったままだし…もしかして、作ってって冗談だった？

あー、食べ物の差し入れは怖いって言ってたか…手作りだし…嫌なのかな。