第28章 帝東戦
試合は膠着状態。
動いたのは8回裏。
東条くんのバットからだった。
倉持くん、春市くんと出塁し2死満塁。
「ゾノくん…」
たった1球が明暗を分けた。
甘く入った所をゾノくんが叩いた。
走者一掃のタイムリー。
3塁タッチアウトはなんだかゾノくんらしい。
あとアウト3つ。
なのに、それが遠かった。
帝東は簡単に勝たせてくれない。
マウンドに集まったみんなが同じ方を向いてる。
雨がやんで、太陽の光が雲の間からさしていた。
ノリくんを始めたみんなの顔つきが変わった。
ショートゴロで試合終了。
試合後は食堂で今日の試合について盛り上がっていた。特にゾノくん。
感覚を忘れないためにって春市くんつれて、また自主練。すごい!
「降谷のやつまだ走ってたぞ」
と、倉持くんが御幸くんに聞いてきた。
「いいよ、走らせとけば。
死ぬほど応えてもらわねぇと…
これで少しは扱いやすくなれば二度美味しい。」
「出た、腹黒!」
「悪い顔…」
収穫があった試合だったと御幸くんは言った。
沢村くんも投げられるようになったし、また一歩前に進めた。
御幸くんがウエイトしてる間に、私は今日の試合をデータに纏めとこうかな。
「あー、疲れた…悪いな。待たせた」
「ううん、お疲れさま。」
御幸くんがプロテインのシェイクボトルをシャカシャカしながらやってきた。
「改めて振り返ると本当に勝てて良かったね」
「あんな形でマウンドを降りたけど、降谷も沢村もノリもよく投げたよ。」
「本当だよね。雨の中みんな本当に頑張ってた。御幸くんの盗塁刺したのもかっこよかったー」
御幸くんが何か言ったけど、私のクシャミでさえぎってしまった。
「寒い?舞ちゃんも雨に打たれたし、風邪引いた?」
御幸くんが来ていたジャージの上を脱いで貸してくれて、御幸くんの体温で暖めてくれた。
こう抱きしめられてるのは初めてじゃないのに、今日はなんだか緊張してしまう。
「身体、冷えてるな。大丈夫か?」
「う、うん…大丈夫…」
私の異変を感じ取った御幸くんは顔をのぞき込んできた。
なんとなく見られたくなくて、御幸くんの胸に顔を埋める。
「ちょっ…どうした?」
「待って…わかんない。とりあえず…顔見ないで…」
自分から抱きついてしまったと気づいて、さらに顔があげられなくなった。