第22章 約束
「おはよう」
「はよ。練習ねぇよ、舞ちゃん。」
やっぱり御幸くんが昨日のDVDを食堂で見ようとしていた。
「私も一緒に見ていい?これ、つけたいの。」
「いいよ、ここおいで。」
御幸くんが座っていた席の隣に座る。
DVDの音声とカリカリとポールペンの走る音だけが響いている。
9回裏ツーアウトを取った所で、御幸くんの表情が変わった。
「最終回の沢村、表情も様子も違う。なんで、タイムを取ってマウンドに行かなかったんだ、俺。」
ジーッと見ていたからか、私の視線に気づいて、小さく呟く。
食堂に誰か入ってくる。
「倉持くん…」
「昨日の今日でもう試合振り返ってんのかよ…
矢代まで一緒に…」
「………。」
「立派な心がけだとは思うけどよ、今は……いいじゃねぇか…」
倉持くんの言葉を遮って御幸くんが低い声で言った。
「力が足りなかったんだよっ、自分を含めチーム全体のな…」
「あれだけ頼もしい先輩がいたチームでも届かなかったんだ…」
「不動の4番はもういない、エースもいない。
今のままじゃ、俺達の代で甲子園なんて夢のまた夢だぜ」
御幸くんの瞳にはユラユラと闘志とも取れる光が宿っていた。
「御幸くん…」
「お前…」
御幸くんの強い意志に圧倒された。
立ち上がるまでには人それぞれ時間が必要。倉持くんの言う事もわかる。
そう簡単に切り替えられない。
でも、もうすでに御幸くんみたいに切り替えて動いている人はきっといる。
「やるしかねぇよな……」
「矢代…」
「は、はい!」
それまでうつむいていた倉持くんが、勢いよく顔をあげたから、思わず声が裏返ってしまう。
「俺が引きずってるって思ったら、遠慮なく蹴り上げてくれ。」
「選手の事をよく見てる舞ちゃんに頼むとかお前もなかなかだな。俺もお前のこと蹴っていいのか?」
「お前はダメだ。ムカつくから。」
少しだけいつもの2人に戻った気がした。
「ゾノとかあのあたりも今頃バット振ってんじゃねぇの?」
「だろうな…。ジッとしてられる性分じゃねぇしな」
行ってみようかと室内練習場に向かう。
「舞ちゃんも行くか?」
「あー、2人の話に聞き入っちゃって、最後つけれてないから、それ終わったら行く。」
「わかった。」